約 886,208 件
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/766.html
朝教室に入ると、ただでさえやかましいクラスのざわめきが 心なしか一回り大きくなったような気がした。 キョン「おっす谷口。クラスが騒がしいようだけどなんかあったのか?」 谷口「!」 「・・・・・・」 こともあろうに谷口は、オレの目をみるなり不快な表情をあらわにして 男子グループの輪に逃げていった。 (なんだなんだ!?無理して愛想をふりまけとはいわんが、朝のあいさつをしてきた クラスメイトに対してその態度はないだろ。オレが癇に障ることでもしたのか?) その男子グループは、オレをチラ見してはクスクス笑っている。 一体なんだってんだ!? 動揺をなんとか抑えつつ、オレは席に座った。 キョン「おいハルヒ、今日のクラスなんか変だな」 ハルヒ「・・・・・」 キョン「おいハルヒ?聞こえてんのか?」 ハルヒ「・・・るさい」 キョン「え・・?」 ハルヒ「うるさいっつってんのよ!変なのはアンタの頭でしょ!気安く話しかけないでよ」 キョン「!!」 その瞬間、先生が教室に入ってきてホームルームが始まった。 谷口のほうを見ると、オレがハルヒに怒鳴られたことが愉快でたまらないといった風に 笑いをこらえていた。 ホームルームの間、オレは動揺するのを必死に抑えていた。なぜだ? こともあろうにハルヒまでがこの態度とは・・・ 午前中クラスの冷たい視線に耐え続け、昼休みになるとオレは逃げるように SOS団部室へと走っていった。部室ではいつものように長門が本を読んでいた。 キョン「長門、ちょっと話を聞いてくれないか」 オレは長門に会って多少安心した。今朝クラスメートの様子がヘンだったのは、 なにかおかしなことが起きてるに違いないと思ったからだ。新手の閉鎖空間か、 はたまた情報ナントカのしわざかはわからんが。 長門ならこの奇妙なパラレルワールドをなんとかしてくれるに違いない。 今までだって、ずっとそうだった。 長門「出てって」 キョン「ど、どういうことだ長門。お前ならこのワケのわからない状況をなんとか 元に戻してくれると思って・・・」 長門「なにを言っているのか意味がわからないけど、すぐに出ていかないと人を呼ぶわよ」 キョン「長門・・・」 ハルヒ「有希になにしてんのよ!この変態男!」 突然後ろから怒鳴り声が襲ってきた。ハルヒだ。 ハルヒ「アンタ2年の朝比奈先輩だけじゃ飽き足らず、今度はウチの部の 有希にまでつきまとうっていうの!ただじゃおかないわよ!」 キョン「ちょっと待ってくれ!全然訳がわからん。オレが朝比奈さんにつきまとってるだって? オレたち同じSOS団のメンバーだろ?放課後部室で遊んだり、たまに一緒に下校したりは してたけど・・」 ハルヒ「はぁ!?なにワケのわかんないこと言ってんの?なんなのよそのナントカ団てのは! 大体学園のアイドル朝比奈先輩がアンタみたいなのと一緒に帰ったりするはずないでしょ! このストーカー男!」 これ以上部室にいればハルヒに刺し殺されかねない剣幕だったので、 オレは退散することにした。 教室に戻ると、クラスメイトがいっせいにオレのほうを向き、すぐに目をそらした。 谷口「な、言ったとおりだろ?アイツ5組の長門にもつきまとってるんだってさ」 朝倉「やだ。怖い」 国木田「なにを考えてるんだろうね」 谷口たちの悪口が聞こえてくる。どうやらオレは朝比奈さんと長門につきまとう ストーカー野郎ということらしい。まったく考えられない話だ。 ここは閉鎖空間に違いない。ハルヒのせいなのか?オレをこんな ムナクソ悪い設定の中へ放り込んだのは。 はは、なんだか涙がにじんできた。さっきから手足の震えも止まらない。 いじめを受けるってのはまさにこんな感じなんだろうな。3日も続けば確実に 精神が崩壊する自信があるぞ。 休み時間が終わるまで机に突っ伏していたら、終了間際にハルヒが戻ってきた。 オレはハルヒがイスを引く音にビクっとした。 ハルヒ「ちょっとアンタ!」 ハルヒの怒声でさらにビクっとする。まるで肉食獣を前にした小動物の心境だ。 ハルヒ「アンタがなにを考えてるのか知らないけど、今度有希に近づいたら ただじゃおかないからね!文芸部部室にも一切近づかないでよ!」 どうやらこの世界のハルヒは文芸部に所属しているらしい。まったく似合わんが。 SF研とかオカルト研のほうがまだハルヒらしいのにな。 休み時間が終わり午後の授業が開始されたが、軽いパニック状態に陥っていたオレは まったく授業が耳に入ってこなかった。クラスの連中はときどきオレの方を向いては 笑いをこらえている。なにがそんなにおかしいんだろうな。 午後の授業が終わり、ホームルームをなんとかやり過ごし、 オレは逃げるように教室を出た。 まだパニックはおさまっていないみたいだ。朝比奈に襲われたときも、 ハルヒと閉鎖空間に閉じ込められたときだってこんなに動揺はしなかったはずだ。 あときのほうがはるかに現実離れていたのにな。おかしな話だ。 キョン「これからどうすっかな・・・」 ひとけのない校舎裏に避難したオレは、誰に言うわけでもなくつぶやいた。 ここが新たな閉鎖空間だとしても、そろそろ古泉あたりが助けにきてよさそうなもんだ。 キョン「古泉~~~!!とっとと来い!!このムナクソ悪い空間を破壊してくれ!!」 思わずオレは叫んでいた。もう1分だってこんなトコにはいたくはない。 しかしオレの声を聞きつけたのか、誰かがこっちへ向かって歩いてくる。 古泉「なんだ?お前。オレになんか用か?」 やってきたのは古泉だった。しかし、いつもの古泉とは雰囲気がまったく違う。 片耳にこれでもかというほどピアスをつけ、ヨレたYシャツをだらしなく着ている DQNが目の前にいた。片手には木刀を握っている。 オレの知っている古泉はこんなDQNではない。間違いなく本物ではないようだ。 古泉「お前ウワサのストーカー野郎じゃねーかよ。 なんでオレの名前叫んでたんだオイ!」 ヤツの普段のさわやかフェイスは気に入らないが、こっちのDQNフェイスはそれ以上だな・・・ などと考えているうちに、古泉がオレの胸ぐらをつかんできた。 古泉「お前涼宮にちょっかいかけてるらしいな・・・ あんまナメたことしてっと前歯叩き折るぞコラァ」 なんてこった。DQN古泉はハルヒに気があるらしい。どーぞお幸せに。 誰も止めはしないぞ。付き合いたいなら勝手にしてくれ。 しかし古泉の威圧感はオレの反論を許さない。というか、はじめてDQNに絡まれたオレは ほとんど声が出ないぐらいビビっているんだ。 ドゴッ 不意に古泉から腹にヒザ蹴りを食らい、オレは前のめりに倒れた。 キョン「かはっ・・・」 古泉「チョーシ乗ってンじゃねえぞクラァッ!」 怒号とともに古泉はオレのわき腹にケリを入れる。 キョン「うぐ・・・ご・・」 ヤツのつま先はちょっとした鈍器と化し、オレのわき腹に容赦なく食い込んでくる。 オレはサッカーボールじゃねえぞ。 古泉「金輪際涼宮に近づくんじゃねーぞ!」 言いながらなおケリを入れ続けられ、不覚にもオレは気を失ってしまっていた。 2話
https://w.atwiki.jp/ws_wiki/pages/2105.html
autolink() SY/W08-T06 SY/W08-066 カード名:勝利宣言ハルヒ カテゴリ:キャラクター 色:赤 レベル:2 コスト:1 トリガー:1 パワー:6500 ソウル:1 特徴:《団長》?・《和服》? 【自】チェンジ [① このカードをクロック置場に置く]あなたのアンコールステップの始めに、このカードがレストしているなら、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、あなたは自分の控え室の「トラブルガール ハルヒ」を1枚選び、このカードがいた枠に置く。 【起】集中 [③]あなたは自分の山札の上から3枚をめくり、控え室に置く。あなたは自分の控え室のレベルX以下の《団長》?のキャラを1枚選び、舞台の好きな枠に置く。Xはそれらのカードの《団長》?のキャラの枚数に等しい。 TD:あらゆる邪魔者たちを蹴散らして、 SOS団は宇宙かなたまでその名を轟かせるのよ! C:やっぱ目標数値は 常に昨年対比を上回らないといけないのよ! レアリティ:TD C illust.- 初出:ニュータイプ 2007年1月号 トラブルガール ハルヒへのチェンジキャラ。 チェンジの際コストにより1ダメージ受けてしまうが、トラブルガール ハルヒ登場による1点回復で差し引き0になる。 Phantomと同じコストのチェンジなのでサイス=マスターでの回復も可能。 ストックに余裕があれば耳掃除を使ってレベル1からチェンジしてやるのもいいだろう。 ただし、チェンジのタイミングがアンコールステップの始め(即ち相手のターン直前)であり、トラブルガール ハルヒが攻撃できるまで1ターン相手に猶予を与えている事になるので、相手のターンに倒されることも考えられる。 2つめの集中はコストがかかる為圧縮目的では使用し辛いが上手くいけば早出しも可能である。手札から舞台に出すのでは無く控え室からのリアニメイトなのでトラブルガール ハルヒを出しても回復出来ないので注意。 ・関連カード カード名 レベル/コスト スペック 色 備考 トラブルガール ハルヒ 3/2 10000/2/1 赤 チェンジ ・関連ページ 《団長》?
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3652.html
・・俺はただあいつに、笑っていてほしかっただけなのかもしれない。 涼宮ハルヒの再会 (1) いろいろありすぎた一年を越え、俺の初々しく繊細だった精神は、図太くとてもタフなものになっていた。 今の俺ならば、隣の席に座っている女の子が、突然『私、実はこの世界とは違う世界からやって来ているんです』などと言いだしたとしても、決して驚かないだろう。 愛すべき未来人の先輩や無口で万能な宇宙人、そして限定的な爽やか超能力者たちとともにハルヒに振り回されて過ごしたこの一年間は、俺があと何十年生きようとも、生涯で最も濃密な一年になるはずだ。 と言うより、そうなってくれないと困るな。 これ以上のことは、さすがの俺も御免こうむりたい。 いくらなんでも毎年毎年、クラスメイトに殺されかけるような事態は起こらないはず・・・と、思いたいな、うん。 北高に入学してから丸一年がたち、SOS団の団長及び団員はみな、無事進級した。 まぁ、“無事”などという表現が必要なのはどうやら俺だけだったようだが。 もっとも、万が一俺が留年し、一年生をやり直すなどという事態になれば、ハルヒの雷が落ちるのは間違いなかったわけで、そうなれば古泉の機関も黙ってはいなかったであろう。 来年、俺が留年しそうになったら頼むぜ、古泉。 「申し訳ありませんが、あなたの学業のことに関しては、機関はノータッチを貫かせていただきますよ。」 冗談だ。俺もお前や、お前の機関にできるだけ借りなんて作りたくないからな。 「それは結構。では、とりあえず今度の中間テストの結果を楽しみにしておきますよ。」 ふん、誰がお前にテストの成績なぞ教えてやるものか。 「いえいえ、あなたの口から直接伺えるとは僕も思ってはいませんよ。あなたもご存知の通り、この学校には僕や生徒会長の彼以外にも、機関の息のかかった者はおりますので、ご心配なく。」 いやいや、逆に心配になるんだが。 一体お前の機関にどこまで俺のことを調べられているのやら。 「おや、興味がおありですか。では少しお話ししましょうか、あれはたしかあなたが中学2年生の6月・・・」 「おい、こらちょっと待て、誰が話せと言った。」 それは、この約3年間の月日をかけて、ようやく記憶の片隅に追いやった、二度と思い出したくないエピソードだ。 勝手に引っ張り出してくるな。 「そうですか、それは残念ですね。やはり記録として活字で上がってくるものを確認するのと、本人のリアクションを見ながら確認するのでは、だいぶ違いがあるのではと思ったのですが。」 「いいか、その話は二度とするな。特にハルヒの前では絶対にだ。」 「それはもちろん分かっていますよ。僕のほうとしましても、いたずらに涼宮さんの心をかき乱すようなまねは避けたいですしね。」 ハルヒだけではない、この場に朝比奈さんがいなくて本当によかった。 あんな恥ずかしい話を朝比奈さんに聞かれた日には・・・ ああ、いや、これ以上考えるのはやめにしよう。 軽く思い出すだけで、激しい自己嫌悪に襲われる。 とにかく、あの二人に聞かれなかっただけ良しとしよう。 俺が部室に着いた時にはもう、いつも通りのポジションで本を広げていた長門には、話の触りを聞かれてしまったが、あいつのことだ、とっくに承知のことなのだろうし、仮に知らなかったとしても何ともないだろう。 先ほど、古泉の野郎があの話をしそうになったときに、長門がこちらをジトっとした目で見ていたのはなにかの間違いだろう、うん、そうに違いない。 その後、いつもより少し遅れてやってきた朝比奈さんのいれてくれたお茶を飲みながら古泉とゲームをし(当然俺の全勝だったのだが)、同じく遅れてきたハルヒによって朝比奈さんがおもちゃと化すのをなんとか止め、長門が本を閉じるのを合図に帰宅する、というこの一年の間にすっかり定着したこの日常を、俺はいたく気に入っていた。 だってそうだろ。 未来人や宇宙人、自分の望み通りのことをおこせるトンデモ少女(古泉の機関に言わせると“神”か)なんていう、ありえない肩書きをもっているとは言え、学校でもトップクラスの美少女たちに囲まれて、毎日の暇な放課後に色を加えることができるのだ。 まぁ、リーダーである団長様がアレなので、今の俺のポジションを羨む野郎なんてのは、つい一月ほど前に入学してきたばかりの新一年生にしかいないだろうが、人って生き物は慣れてさえしまえば、あとはなんとでもなるものである。 最初にも言ったが、俺はハルヒ絡みのことではちょっとやそっとじゃ驚けない体質になってしまっている。 宇宙人、未来人、超能力者が揃い踏みのこの空間で普通に過ごしている俺にとってみれば、身の危険さえ迫らねば、あとのことはたいてい黙って見過ごすことができるだろう。 そう、それがハルヒ絡みのことであれば、だ。
https://w.atwiki.jp/tomadoibito/pages/65.html
オープニングで行われるハルヒ制作の作業表 グラフィック作業 サウンド作業 シナリオ作業 スクリプト作業 デバッグ作業 1週目 曜日 時間帯 スペース1 スペース2 スペース3 スペース4 スペース5 月曜日 昼休み 目指せ!!花園!!! 月曜日 放課後 火曜日 昼休み テーマ考案(みくる) 火曜日 放課後 世界設定考案(長門) 水曜日 昼休み キャラ性格設定(古泉) 水曜日 放課後 人物相関図(ハルヒ) 木曜日 昼休み 木曜日 放課後 呼称表(長門) 金曜日 昼休み 金曜日 放課後 メインシナリオ設定(古泉) 土曜日 午前 伝説の設定(みくる) 土曜日 午後 サブシナリオ設定(ハルヒ) 2週目 曜日 時間帯 スペース1 スペース2 スペース3 スペース4 スペース5 月曜日 昼休み 衣装探し(古泉) 衣装設定(みくる) 月曜日 放課後 システムラフ(長門) イベントキャラ構図(古泉) SDキャラ(みくる) 火曜日 昼休み イメージボード(ハルヒ) イベント背景構図(古泉) クリア画面(みくる) 火曜日 放課後 コスプレ撮影(ハルヒ) 写真から手描き(古泉) 水曜日 昼休み イベント背景色塗り(みくる) 萌え衣装案(長門) 水曜日 放課後 ドット絵キャラ(古泉) ドット修正(みくる) 背景探し(ハルヒ) 木曜日 昼休み キャララフ(古泉) メインビジュアル(みくる) タイトルロゴ(ハルヒ) 木曜日 放課後 教本探し(古泉) タイトルロゴラフ(みくる) 選択ウィンドウ(長門) 金曜日 昼休み フォント、絵文字(古泉) システムデータ化(みくる) 金曜日 放課後 現実世界ラフ背景(ハルヒ) 背景ラフの清書(古泉) 土曜日 午前 マップラフ(みくる) マップチップ(ハルヒ) アイテム画像(古泉) 土曜日 午後 ステータス画面(みくる) イベントキャラ着彩(長門) キャラ線画清書(古泉) 3週目 曜日 時間帯 スペース1 スペース2 スペース3 スペース4 スペース5 月曜日 昼休み ドットアイテム(古泉) 月曜日 放課後 カードイラスト(みくる) 火曜日 昼休み 火曜日 放課後 コマンドアイコン(長門) 成功失敗アイコン(古泉) 水曜日 昼休み 水曜日 放課後 環境音(ハルヒ) 木曜日 昼休み 木曜日 放課後 オープニング曲(長門) 金曜日 昼休み 金曜日 放課後 エンディング曲(古泉) 土曜日 午前 イベントSE(みくる) 土曜日 午後 キス音SE(ハルヒ) 4週目 曜日 時間帯 スペース1 スペース2 スペース3 スペース4 スペース5 月曜日 昼休み セリフ表示(古泉) 音を鳴らす(みくる) 月曜日 放課後 画像を動かす(長門) イベントスクリプト(古泉) 火曜日 昼休み スタッフロール(みくる) 特殊攻撃作成(長門) オープニング(古泉) 火曜日 放課後 シナリオコンバート(みくる) イベント発生条件(長門) インターフェース(古泉) 水曜日 昼休み 難易度調整(ハルヒ) 操作性向上(みくる) 水曜日 放課後 画像表示調整(古泉) 音のタイミング調整(みくる) 木曜日 昼休み ボイスチェック(長門) 表示順チェック(古泉) ループチェック(みくる) 木曜日 放課後 通しチェック(長門) 音量チェック(古泉) 金曜日 昼休み シナリオチェック(みくる) 誤字脱字チェック(長門) 画像チェック(古泉) 金曜日 放課後 分岐チェック(ハルヒ) (サウンドチェック(みくる) 土曜日 午前 標示物チェック(長門) スクリプトチェック(古泉) セリフチェック(ハルヒ) 土曜日 午後 データ有無チェック(みくる)
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/3829.html
「……で、話とはなんだ、古泉」 「……はい」 …。 夕暮れの文芸部室、今この空間に居るのは俺といつに無く真剣な表情の古泉。 …。 状況が分からない? 大丈夫だ、俺も理解していない。 いつもの時間が終わり帰宅しようとした俺を古泉が呼び止めたのだ。 …。 「大事なお話があります」 …。 ……と。 とりあえず分かるのは古泉が何か重大な話をしようとしている事ぐらいだ……やれやれ、また厄介事か? …。 「またハルヒが何かやらかしたのか?」 「いえ、涼宮さんの事ではありません」 …。 ハルヒの事では無い? …。 「ならお前、あるいは長門や朝比奈さんの事か?」 「いえ、今回は超能力的、宇宙人的、未来人的な事とは一切関係ありません」 …。 じゃあなんだ? …。 「……あなたの妹さんの事です」 …。 …………は? …。 「ちょっと待て、なぜ俺の妹がここで出てくる?……まさか、俺の妹が異世界人だった……なんてオチ…」 「ご安心下さい、あなたの妹さんは正真正銘普通の人間です……話と言うのは…」 「話と言うのは?」 「…………あなたの妹さん、可愛いですよね…」 …。 …………は? ……コイツ何言ってんだ? …。 「……ああ、可愛いな。歳が離れているから尚更な」 …。 とりあえず無難な返事をしてみるが…。 …。 「いえ!そう言う意味では無く!……その、一人の女性として……と言うか……何と言うか…」 …。 頬を赤らめてつぶやく古泉……実は気づいていた……気づきたくなかった…。 …。 「古泉……お前……まさか……」 「…………はい」 …。 …。 古泉一樹はロリコンだった …。 …。 ……神……神よ……いや待て!落ち着け俺! 俺はこんな事態には常人よりも耐性がある!そうだろ?……そうだ、まずは深呼吸だ……………よし、落ち着いた。 まずはコイツが本物かどうか確かめなくては。 …。 「古泉!!」 …。 俺はハルヒが野球部からパクってきたボール(本人は迷子になっていたのを保護したと言い張っている)に妹と書き、古泉に突き付けた。 …。 「え……?」 …。 次に筆箱から取り出した消しゴムに上○彩と書き、同じように突き付けた。 …。 「あの……これは一体……」 …。 突然の俺の行動に困惑する古泉。 俺は静かに告げた。 …。 「古泉、この○戸彩をお前の好きにしても良いぞ」 「好きにしても良いとは?」 「撫で回そうが、乳を揉もうが、口に含もうがお前の好きにしろ」 「な?!そ、そんな事許されるのですか?事務所とか問題ないのですか?!」 「事務所など気にする事は無い……ただし!上戸○を選ぶか我が妹を選ぶかはっきりとしてもらおうか!!」 …。 俺ははっきりと古泉に告げた。 明らかな狼狽を見せる古泉……さあ、どう出る? …。 「……決まっているではないですか、○戸彩を出せば僕の心が揺らぐとでも思いましたか?……まぁ……実際少し揺らぎましたが……僕の答えは……ふもっふ!!」 …。 なっ!? …。 古泉は掛け声と共に消しゴムを投げ捨てた……ああ……彩ちゃん……。 …。 「……本物か」 …。 困った事にどうやらコイツは本物らしい。 只でさえ超能力者と言う属性を所持しているのにその上ロリコンの属性までも求めなくても……。 …。 「そんな訳でこれからあなたの家に行き、お義父さんとお義母さんにご挨拶をして晩御飯でもご馳走になろうかと思‥」 「断る!!」 「……即答ですか」 「当然だ!これで了承する奴がこの世界のどこに居る?」 「いえ、ここに居れば良いなと……いや、駄目ですか……参りましたね……」 …。 突然表情を落とす古泉……様子が変だ。 …。 「どうした?」 「はい、実は……」 …。 …。 古泉が語った事、銀行の手違いで仕送りが遅れ明日にならないとお金が入らない、そして数日前から何も食べて無い……との事。 道理で顔色が悪い訳だ。 …。 「そうだったのか」 「はい……恥ずかしながら」 …。 ここで無視するほど俺は冷たい人間では無い。 しかし、俺もハルヒが課す罰金で手持ち金は無いし……かと言って家に連れていけば妹が危ないし…。 …。 「……あ!?」 「どうされましたか?」 …。 そうだ、あれがあるじゃないか! まさに今こそ使う時だろ? …。 「古泉」 「なんでしょうか?」 「ハルヒに飯を奢らせるぞ」 「…………すいませんもう一度お願いします」 …。 聞き返す古泉、幻聴とでも思ったか? …。 「聞こえなかったか?ならもう一度言おう。 ハルヒに飯を奢らせるぞ! 」 …。 俺の言葉に目を見開いて驚愕する古泉……まぁ、当然か。 …。 「……正気ですか?」 「ああ、至って正気だ」 「涼宮さんですよ?」 「ああ、あの涼宮ハルヒだ」 「天上天下唯我独尊、目の無い巨大台風、世界の中心で我が侭を叫ぶ第六天魔王……等、様々な異名を持つあの涼宮ハルヒにですか?!」 「……お前本人居ないと思って言いたい放題だな……そうだ、その第六天魔王にだ」 …。 しばらく沈黙が流れたた。 その間古泉は俺を理解出来ない物を見るかのような目で見続けた……いやいや、超能力者でロリコンなお前が一番理解出来ねぇよ。 古泉が沈黙を破る。 …。 「……しかし、あなたのその自信、何か手でも?」 …。 その言葉に俺は無言で例のモノを取り出しスイッチを入れた。 …。 …。 「こ…これは……いつの間に……」 「ああ、一昨日にな。まさかこんなに早く役に立つ時が来るとは」 「これがあなたの武器……たしかにこれならば…」 「ああ、勝てる!あの第六天魔王にな」 …。 俺の用意した武器、これがあればあのハルヒと言えども俺たちに飯を奢らざるを得ないだろう……しかし…。 …。 「ただし、一つ問題がある。これは古泉、お前に深く関係する事だ」 …。 古泉の顔に緊張が走り……そして口を開いた。 …。 「……閉鎖空間ですね」 …。 閉鎖空間……知っての通りハルヒの精神が不安定になると発生するトンデモ空間。 これの発生を食い止めるのが古泉……機関の使命。 俺たちが今から実行しようとしている事は機関にとって敵対を意味する事になる。 なぜならこれを実行したら過去最大級の閉鎖空間が発生する事が確実な訳だから。 …。 「どうする?」 「…………」 …。 古泉は無言で俺に背を向け窓へと向かった。 …。 「まぁ、無理だよな、さすがに……この件は無かった事に…」 「雪山の件……覚えていますか?」 …。 俺に背を向け窓の外を見ていた古泉が俺の言葉を遮るように語りかけた……雪山? …。 「あの時約束しましたよね? 一度だけ機関を裏切りあなた方に味方する ……と」 「……それが?」 「あの約束を果たす時が来たようです」 …。 ……おい。 …。 「おそらくこの件を実行中に凄まじい勢いで電話が掛かってくるでしょう……ですが僕は!それを完全に無視します!……ええ、とても辛いですが僕は約束を守ります!あなたとの約束を!!」 …。 いつの間にか振り返り拳を握りしめ熱く語る古泉……ってか何だその約束の無駄使い。 …。 「……いや、そこまで重大な事でも」 「いえ、約束は約束です!」 「いや、いいって…」 「そこをなんとか……わかりました!では約束は一度では無く二度……いや、三度で。ですからその内の一回を今回に…」 「……ずいぶん安いな、お前の約束」 …。 要するにお前は大義名分が欲しいんだな? お前がそのつもりならそれで良い。 …。 「分かった、お前の覚悟は受け取った……ではこれより我らは修羅に入る!」 「鬼に会っては鬼を切り、仏に会っては仏を切る……ですね?」 「さすが古泉、良く知っているな。まぁ、それくらいの覚悟が居るって事だ。 なんせ相手は…」 「第六天魔王もとい涼宮ハルヒ……神ですからね」 …。 こうして二匹の修羅と化した俺たちはハルヒの元へと向かった。 …。 …。 …。 …。 ~涼宮ハルヒ~ …。 …。 …。 「結構遅くなったわね」 …。 今日は部活が終わった後、有希とみくるちゃん誘ってと最近開店したお寿司屋さん行ってみた……もちろん回るお寿司屋さんだけどね。 ん?なんでキョンと古泉君を誘わなかったかって?開店サービスで 女性のみ二千円で食べ放題!飲み放題! …ってルールがあったからよ。 まぁ、アタシと有希が食べ過ぎたせいか 女性のみ二千円で食べ放題!飲み放題!(涼宮ハルヒ、長門有希除く) ってなっちゃったけど……まぁ、それはまた別のお話。 それにたまには女の子同士だけで食事ってのも良いじゃない? その後ケーキ屋さんに行ったりなんかしてこんな時間になっちゃった……別に帰りが遅くなったからって怒る親も居ないし。 ん?ああ、親が居ないってのは二人共仕事帰りがいつも遅くなるってだけだから勘違いしないで。 ……それにしても一人娘を放って置くなんてグレたらどうすんのよ、幸いにもアタシは真っ直ぐ素直に育ったけど……なんて事考えている内に家に到着! …。 ガチャガチャ …。 「ただいま~……って誰も居ないんだけどね……ん?」 …。 リビングに灯りが点いている?お母さん? …。 ガチャ …。 「どうしたのお母さん、こんなに早…」 「お帰りハルヒ。遅かったな」 「お帰りなさい涼宮さん」 「……」 …。 ガチャ …。 アタシはドア閉めた…………え?……キョンと古泉君……? ……幻覚と幻聴?……無理もないわ、団長としていつも気苦労が絶えないし……うん、幻覚幻覚。 アタシはもう一度ドアを開ける。 …。 ガチャ …。 「なにやってるんだハルヒ?入らないのか?」 「涼宮さん、お茶を用意していますよ。座って下さい」 …。 …………幻覚じゃ……無い?! …。 「ちょ…ちょっと!なんであんた達ここに居るのよ!?」 「……声を抑えろハルヒ、夜だぞ。近所迷惑を考えろ」 「何処から入ったの?!」 …。 アタシの問いにキョンはポケットから何かを……って?! …。 「人の家の合鍵を勝手に作るな!」 …。 アタシはそれをひったくり怒鳴る……なに……この状況?何でキョンと古泉君が家に? ……駄目、頭グルグル……落ち着け涼宮ハルヒ!落ち着くの!落ち着いて今の状況を整理するの! …。 「はい涼宮さん、お茶ですよ」 「ああ、ありがとう古泉君……ごくごく……ふぅ~……じゃなくて!なんで古泉君まで居るのよ!」 「まぁ、まずは落ち着け、深呼吸だ。それにしてもお前は突然の事態に対する耐性が無いな。それでも団長か?そんなザマで何が世界の不思議を見つけるだ!!ええ?!」 …。 くっ……言い返せない……ってか……何でアタシ怒られてるんだろう…? とにかくキョンの言う通り深呼吸……………………よし、もう大丈夫! …。 「落ち着いたか?じゃあ話を聞け」 …。 …。 …。 …。 「なるほどね」 …。 キョンの話……まさか古泉君にそんか事情があっただなんて。 …。 「そんな訳だ、だから団長として俺と古泉に飯を奢ってくれ」 …。 なんでキョンが入っているのか理解出来ないけど……って言うか。 …。 「それは別にキョンが古泉君に奢ってあげたら良いんじゃない?」 「あいにく俺はお前が課す罰金で貧乏だ」 「ん……でも家に招待して晩御飯をご馳走するぐらい良いでしょ?」 「ある切実な事情があって古泉に家の敷居を跨がせる訳にはいかないんだ」 「……何よそれ」 「それは禁則事項だ」 …。 何よ禁則事項って……そう言えばみくるちゃんもたまに使うわね。 こんど意味聞いてみよう。 …。 「でも残念だけど家は何も無いわよ、アタシも外で済ませて来たし」 「ああ、それは確認済だ。見事に何も無いな」 「勝手に家捜しするな!!」 「声大きい、近所迷惑を考えろ」 「あんたはアタシの迷惑を考えなさい! ……まさかアタシの部屋とか入ってないでしょうね?」 …。 もしも写真立てとか……それどころか日記でも見られていたら。 …。 「見損なうな、そんなモラルに反する事を俺たちがすると思っているのか?お前は俺達をそんな目で見ていたのか?……だとしたらかなりのショックだな…」 …。 表情を落としうつ向くキョン……別にそんなつもりじゃ…。 …。 「ご、ごめんなさい。言い過ぎたわ」 「……すまん、俺も言い過ぎた」 …。 アタシの悪い癖……不用意な発言で人を傷つける……反省。 …。 「……不法侵入の時点で人としてアウトなんですけどね」 …。 古泉君の呟きが聞こえたような気がしたけど話が進まないからとりあえず聞かなかった事にする……ってかさっきから古泉君の携帯鳴りっぱなしなんだけどなんで出ないんだろ? …。 「と、とにかく何も無いのは確認済なんでしょ?無駄足だったわね」 「それは問題ない、今から外でお前に奢ってもらうつもりだからな」 「な!?嫌よ!アタシは奢ってもらうのは好きだけど人に奢るのは大っ嫌いなの!」 「……そんな発言を堂々と胸を張って言える所がお前の良い所であり羨ましい所なんだが……ハルヒ?」 …。 キョンの表情が変わる……何よその猛禽類を思わせる鋭い目は? …。 「な、なによ」 「一昨日の放課後を覚えているか?」 …。 一昨日の放課後? え~と……たしかキョンは掃除当番、たしか古泉君も。みくるちゃんは鶴屋さんと用事があって、有希はコンピ研に……そう、アタシが一番に部室に行ってしばらく誰も………あ!? …。 「思い出したか?」 …。 邪悪……そうとしか表現出来ない顔でニヤリと笑うキョン。 …。 「キョンあんた……まさか……」 「古泉」 「はい」 …。 古泉君が取り出したのはカセットレコーダー……って事は……やっぱり…。 …。 「人と言うのは悲しいな……暇になると即興で歌を作り歌ってしまう。しかもそれは大抵が恥ずかしい代物だ」 …。 足がガクガクと震える……道理であんなに強気だった訳だ二人共…。 …。 「ハルヒ、お前に選択肢は無い」 …。 ……くっ …。 「分かったわよ!奢れば良いんでしょ?奢れば!ライスでもライス大盛でも好きにどうぞ!」 「……やれやれ、お前はまだ自分の立場が理解出来ていないみたいだな……古泉」 「はい」 …。 カチッ …。 うきやあああああああああああ!!! …。 「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい申し訳ありませんでした!!何でも好きな物をお腹一杯お食べくださいませ!二人は成長期だから美味しい物を一杯食べないといけないのおおお!!」 「古泉」 「はい」 …。 カチッ …。 「……うっ……うっ……」 「涼宮さん、ご馳走になります」 「ハルヒ、素直なお前が一番可愛いぞ」 「この鬼いいいいいい!!!」 …。 悪魔二人に晩御飯をご馳走する羽目になってしまった……アタシともあろう者が……うっ…うっ…。 …。 …。 …。 そんかこんなで今、夜道をアタシ、キョン、古泉君の三人で歩いている。 静かな夜道に二人の話し声と古泉君の携帯音だけが響き渡っていた。 …。 「ここの高級レストランに入るわよ」 「高級レストランって……ただのファミレスじゃないですか」 「まぁ、もう歩くのも疲れた。次回はもっとマシな所に連れていけよ」 …。 じ…次回って…。 …。 …。 …。 「いらっしゃいませ、ご注文はお決まりでしょうか?」 …。 席に着くと……見るからに頭の軽そうな女が営業スマイルを浮かべて注文を聞きに来た。 ……いけないいけない、アタシ心が荒んできてるわ…ダメよこんなんじゃ。 …。 「……コーヒー」 …。 お寿司食べたからお腹空いてないし……。 …。 「俺は高い順番に上から10品、それとデザートも上から5品」 …。 遠慮全く無しですか……そうですか…。 でも古泉君なら…。 …。 「おや、それは良いですね。では僕も彼と同じ物を」 …。 ……もう好きにして。 …。 大量の料理がテーブルの上に並べられるやいなや、二人はまさに成長期とでも言うような食欲でそれらを胃袋へと入れ始めた。 ……アタシはコーヒーを飲みながら眺める。 …。 「ねぇ、古泉君」 「はい?」 「さっきから携帯鳴りっぱなしだけど出なくて良いの?」 「あ、うるさかったですか?申し訳ありませんでした」 …。 そういって古泉君は電源を切った……良いの? …。 ……それにしても……これ全部でいくらになるのかな…。 アタシはポケットの財布を確認す…………え?……。 ……そんな訳無いわ…そう!別のポケットに! ………無い……嘘…。 ……落ち着け、落ち着くのよ涼宮ハルヒ、キョンも言ってたでしょ? まずは深呼吸…………よし、落ち着いた。 財布は……あ!…そうだ…。 思い出した、リビングのテーブルに置いた財布の存在を……どうしよう…。 …。 「どうしたハルヒ?」 「どうかされましたか涼宮さん?」 「へっ?!な、なに?」 …。 突然二人が声を掛けてきた。 …。 「いや、顔色が悪いぞ」 「ええ、真っ青ですよ」 …。 ……まずい。 …。 「べ、別に何も無いわよ!至って普通の状態よ!」 「そうか……なら良いんだが」 …。 二人は再び食事へと戻った……まだ……まだ駄目。せめて二人がお腹一杯になってから。 …。 …。 …。 …。 「いやあ、食った食った」 「ええ、こんなに美味しい食事は本当に久しぶりでしたよ」 …。 二人は食事を終え食後のコーヒーを飲んでいる……もう良いかな?大丈夫かな?……かな? …。 「ねぇ、キョン、古泉君」 「なんだ、ハルヒ」 「なんでしょうか?」 …。 あ、笑顔だ……お腹一杯になったから凄く機嫌が良いんだよね? うん、大丈夫。 …。 「あの……凄く言いにくい事なんだけど……」 「どうしたんだハルヒ、お前らしくないぞ」 「ええ、何でも言って下さい」 …。 アタシは自分で出来る一番可愛い顔で言った。 …。 「財布……忘れて来ちゃった……テへッ(はーと)」 「「…………」」 …。 しばしの沈黙の後二人の顔がみるみると……。 …。 「「あ゛あ゛(怒)!!」」 「ひいっ(泣)」 「古泉!例のテープを今すぐ流せ!大音量でだ!」 「はい!ただいま!!」 …。 ちょおおおおおお!!! …。 「ええ、お集まりの紳士淑女の皆様、北高SOS団団長涼宮ハルヒが心を込めて歌いました、聴いて下さい」 「いぃやめぇてえええええええワザとじゃ無いのおおおお本当にいいいいい!!! 」 …。 …。 その後アタシの必死の努力によりとりあえず大惨事はまぬがれた……ワザとじゃないの……本当なの…。 …。 …。 …。 …。 「……一杯食べてしまったな」 「……食べてしまいましたね」 「……食べたわね」 …。 アタシ達三人は今途方に暮れていた。 …。 「お金がありません。ごめんなさい」 …。 そんな言葉で許して貰えるような金額では無い事はアタシ達誰もが理解していた。 二人を見てみる……困っているわね。 方法はない、お金が無いのは事実。 ……素直に謝るしかない……ここは団長であるアタシが仕切らないと! …。 …。 「ねぇ、ここは素直にあやま…」 「やはりこの手しかありませんね」 「「え?!」」 …。 アタシの言葉を遮るように古泉君が発言した……何か手があるの? …。 「聞かせてくれ、その手とやらを」 「はい、まずあちらをごらんください」 …。 古泉君が指す方向……レジの所に男の店員さんがいるわね…。 …。 「幸いにも今フロアに店員は一人しか居ません。まずあの店員の前に僕かあなた、あるいは涼宮さんが立ちます」 「「それで?」」 「次にその店員にボディブロウを入れるのです……その隙に逃亡……どうですか?」 「「なっ?!」」 …。 アタシとキョンは同時に驚きの声を上げる……ちょっと古泉君、それって食い逃げ!……いや、この場合は強盗よ! …。 「古泉君!ちょっとそれは…」 「……その手があったか」 …。 ……へっ? …。 「この手しか思い浮かびませんでした」 「いや、さすが古泉だ。店員の前には俺が立とう」 「……漢ですね。ではお任せします」 …。 ……なに?……この二人?……大体おかしいでしょキョン? あんたの役目はアタシの暴走を止める事でしょ?まるで逆じゃない…。 …。 …。 アタシは知らなかった、この二人が修羅に入っていると言う事を。 鬼や仏をも斬る覚悟の二人にとって何の罪もない店員さんにボディブロウを喰らわせる事くらいほんの朝飯前だと言う事を……。 …。 …。 「ボディブロウは……そうですね、気絶させるのが一番の理想ですがそれは難しいと思いますので、とりあえず最低でも10秒は悶絶させたい所ですね」 「10秒か……じゃあこの角度で……」 「はい……えぐり込むように……」 …。 修羅二匹が作戦会議をしている……あの会議が終わったその時……何の罪も無い店員さんの前に立ちキョンは …。 一切の手加減を止め、強力なボディブロウを喰らわせる …。 そう …。 微塵ほども容赦無く!! …。 …。 「あは……あはははははは…」 …。 アタシは壊れかけていた……何故かって? だってアタシ涼宮ハルヒよ?ちゃんと理解しているのよ自分が変人だって!それを受け入れているわ! …。 でも……いま……いま…。 …。 「なぁ古泉、もしもあの店員が大怪我とかしたら……」 「その時はその時です。そんな事を考えていたらこのミッションは達成できません。僕なら殺すつもりで打ちます」 「……お前の言う通りだ。すまん、覚悟がたりなかった……殺す気でだな」 「祈りましょう。彼の幸運を……」 …。 …。 この三人の中で一番の常識人がアタシであると気づいてしまったから……。 …。 駄目!壊れるのはまだ早い!!アタシは誰だ?そう、涼宮ハルヒ!!頑張れアタシ!! みんな見ていて、アタシ涼宮ハルヒの頑張り物語りを!! …。 …。 …。 「待ちなさい!」 …。 アタシは今にも向かいそうだった二人に声をあげた。 …。 「なんだハルヒ?もうミッションをスタートさせねばならんのだが」 「涼宮さんも逃げる準備を早く」 「却下!!」 「……え?!」 「逃げる準備?ミッション?何ふざけた事言ってんの?大体団長たるアタシを無視して何勝手に話進めてんのよ!」 …。 二人の顔に狼狽が見える。 …。 「いえ……しかしこうなった以上はこれしか…」 「ハルヒ!じゃあお前には何か他に手があるっていうのか?」 …。 他の手?……それは……。 …。 「……無いわ」 「なら引っ込んでいろ!俺達のプランでなら確実にこの窮地から脱出出来るんだ」 …。 ……ほう。 …。 「……なんの罪も無い人を傷付けてね」 「「……ん」」 …。 アタシの言葉に二人はうつ向く……効いたみたいね。 …。 「じゃあ……一体どうしろと…」 「涼宮ハルヒ」 「……は?」 「アタシの名前よ。思い出した?アタシが待てと言っているの!うだうだ言って無いで大人しく待ちなさい!」 …。 …。 …。 「……分かった」 「分かりました」 「うん、よろしい!」 …。 涼宮ハルヒ完全復活! …。 …。 …。 …。 あれからしばらく時間が流れた。 さっきああは言ったけどこの窮地を脱する手段は未だに思いついていなかった。 …。 …。 『電話して誰かにお金持って来て貰えば良いんじゃね?』 …。 …。 神の声ありがとう。たしかにその手が一番よ。 でもアタシがその手を思いつくのは全て終わった後。 ……人間ってテンパっているとそんな基本的な手段も思いつかないもんなのよ。 …。 「……やはりあの手しか」 「ダメよキョン!惨劇を起こして乗り越えてもその幸せは長くは続かないの。待ちましょう……追い風が吹くのを」 「追い風か……いつ吹くってんだ」 …。 今は待つしかない……そう……追い風を。 …。 「……よろしいですか?」 「古泉?」 「古泉君?」 …。 あれから一言も発しなかった古泉君が突然声をあげた。 …。 「どうした、古泉?」 「まずはあちらをご覧ください……おっと!何気なく、気付かれないように」 …。 古泉君の示す方向を見ると…………何?あいつ? 一人の人相の悪い男がアタシ達をジッと見ていた。 …。 「もうかれこれ一時間近くになります……あの不快な視線……もう我慢できません」 「……なるほどお前の言いたい事は分かった」 「これはあちらから喧嘩を売っているも同然……売られた喧嘩は買うべきです。ついでにここの支払い分巻き上げましょう」 「さすが古泉だな……上等だ、その役目、俺が引き受けよう」 「大丈夫ですか?結構強そうですよ」 「心配するな、伊達にこの一年過ごして来たわけじゃ無い。体力だけは無駄に付いた」 「……そうですか、ではご武運を」 …。 キョンは席を立ち向かおうとした。 …。 「待ちなさい」 …。 アタシはキョンを呼び止める。 …。 「なんだハルヒ、まさか止めろとか言うつもりじゃないだろうな?」 「いいえ!あの手の奴はここでキッチリと締めておくのが良いわ。 払わないとでもぬかしたら腕の一本でも折ってやりなさい」 「あ……ああ」 …。 今度こそキョンは向かった……ん?さっきと言っている事が違う? なんで?売られた喧嘩は買うべきでしょ? …。 「やりますね、いきなり胸ぐらを掴みましたよ」 「頑張れキョン!」 …。 …。 …。 「マズイですね……素直に謝りそうな気配です」 「なにやってんのよ!許したらダメよ!」 …。 …。 …。 「……どうやら打ち解けてしまった様ですね」 「……バカキョン」 …。 程なくしてキョンが笑顔で戻ってきた。 …。 「……あなたには失望しました」 「このチキン野郎……もう一回行って来なさいよ」 「違う違う、俺じゃなくて古泉が行けば良いんだよ」 「僕が?」 「古泉君が?」 …。 キョンは古泉君に行けと言っている……なんで古泉君? …。 「……えっと……じゃあちょっと行ってきます」 「頼んだぞ」 …。 古泉君は首をかしげながら向かって言った。 …。 「キョン、説明して?」 「ああ、あの男、実はホモなんだ」 …。 ……へっ? …。 「どうやら古泉に一目惚れしたみたいでな、あの視線は奴から古泉へのラブ光線だったって訳だ」 「……そ、そうなんだ……んで支払いはどうするの?」 「ああ、紹介してくれたら報酬をコトがすんだ後、古泉に渡すそうだ」 「コトって……まさか?!」 …。 古泉君を見てみると……トイレに連れて行かれそうになっている?! …。 「助けて下さい!この男……何かを狙っています!」 …。 古泉君の声が響き渡る……狙ってるって、あなたの肉体なのよ! …。 「あなたは何電話掛ける振りをしているんですか?それどう見ても電話じゃなくてあなたが履いていた靴でしょ?!」 「ああ……次の商談の件だが…」 …。 キョンは上手くやっているわね……アタシは…。 …。 「涼宮さん!」 …。 アタシはテーブルの下に潜り耳を塞いで …。 「プーさんでしゅプーさんでしゅ、ハチミツ食べたいでしゅ」 「テーブルに潜って一体なになっているんですか?!」 …。 古泉君はどんどんとトイレに近づいて……ううん、アタシは何も見ていない!聞いていない! …。 「アッ――――!!!」 「プーさんでしゅプーさんでしゅ……」 …。 …。 …。 …。 「コーヒーお代わりお願いします」 「ああ、俺も」 …。 アタシとキョンは古泉君の帰還を待っていた……コーヒーを飲みながら。 古泉君がいつの間にか居なくなってそろそろ30分になろうとしている。 …。 「古泉一体何処に行ったんだろうな」 …。 キョンが棒読みでそう呟く。 …。 「そうね、いつの間に居なくなっちゃうんだものね」 …。 アタシも棒読みで返しておいた。 さらに15分ぐらい経った時だ。 …。 「古泉!」 「古泉君!」 …。 古泉君が帰って来た! …。 …。 「一体何処に行っていたんだ?心配したぞ」 「本当よ、でも責めるつもりは無いわ。だってちゃんと帰ってきたのだもの」 「僕……僕……」 「どうした、古泉?」 「古泉君?」 …。 …。 「……汚れてしまいました」 …。 ……古泉君。 …。 「お尻の穴が……痛いんです……」 …。 ああああああ!!! …。 「痛みに耐えて良く頑張った!感動した!」 「あなたはSOS団の誇りよ!あなたに終身名誉副団長の称号を与えるわ!」 …。 古泉君あなたは本当に立派よ!……所で…。 …。 「古泉、あの男から何かもらわなかったか?」 「え?……ええ、これを…」 …。 古泉君が差し出した物……それは。 …。 「……テレホンカードだと?」 「……しかも50度数な上に使いかけ……こんな物の為に古泉君は…」 「待って下さい」 「「えっ?」」 「本当に大切な物はお金ではありませんよ、本当に大切な物とは……」 「「大切な物とは?」」 …。 …。 「固くて太い物です」 …。 …。 …。 「うわああああああ!!!」 「いやああああああ!!!」 …。 ファミレスにアタシとキョンの絶叫が響いた。 …。 「駄目だ古泉!!そっちは駄目だ!!」 「古泉君!!そっちにいったら駄目えええ!!」 …。 なんて事?!まさか古泉君が! …。 「違うだろ古泉!お前はロリコンだ!!そうだろ?」 …。 ……え? …。 「キョン?ロリコンって……」 「ああ、古泉はホモなんかじゃない!俺の妹(11)が好きなロリコンなんだ!!まかせろ、俺が必ず何処に出しても恥ずかしくない立派なロリコンに戻してやる!!」 …。 古泉君……ロリコンだったんだ。 ……ちょっと引いちゃった。 …。 594 名前:涼宮ハルヒの幕張 ◆0qzco1.0p6 [sage] 投稿日:2007/11/23(金) 01 13 49.31 ID eK7mf4EFO 「古泉、今から俺が言う質問に答えろ!良いな?」 「は…はい…」 「女子児童、OL……さぁどちらに心が惹かれる?」 「女子……児童です」 「良し!なら次だ、ブルマとパンスト……どっちが欲しい?」 「…ブルマです」 …。 だんだんと古泉君の目に光が戻っていってるみたい……。 …。 「最後だ、上戸彩と俺の妹……どっちを愛している?」 「あなたの…妹さんです!」 …。 古泉君はしっかりとした声で言った……古泉…君。 …。 「古泉!」 「僕は……僕は……」 「何も……何も言うな……くう、涙がとまらねぇ」 「……ひっく……ひっく……古泉君……お帰りなさい」 …。 それからアタシ達は三人で抱き合って泣いた……事情を知らない他の人達ももらい泣きしているみたいね。 ……本当にゴメンナサイ、ゴメンナサイ。 その涙無駄使いです。 本当にゴメンナサイ。 …。 「古泉、もう一度お前の愛する者の名前を聞かせてくれ」 「あなたの妹さん……」 「声が小さい!もう一度だ」 「あなたの妹さん…………の」 …。 ……の? …。 「お兄ちゃんです」 …。 …。 …。 ……えっと……キョンの妹のお兄ちゃん……って……。 …。 「うわああああああああああ!!!」 …。 キョンの絶叫が響いた……古泉君……戻ってこれなかったのね…。 …。 「……キョンたん」 「やめろ……俺をキョンたんと呼ぶな……俺を恋する乙女の目でみるな……」 …。 キョンがどんどん追い詰められて行く……このままだとキョンが…。 でもアタシにこの状況で何が…………ん?!キョン? キョンがアタシを見て……そう、分かったわあんたのアイコンタクト……伝わったわ。 まかせて! …。 「古泉君!向こうでフンドシ締めた美少年の集団が悩ましげに腰を振りながら練り歩いているわよ!」 「なんですって?!」 …。 古泉君がアタシの言葉に騙された……今よ、キョン! キョンは一瞬アタシに親指を立てた後素早く古泉君の後ろに回り込み……これは……これは…。 …。 「うぉおおおおお!!」 …。 ジャーマンスープレックスホールドだあああああ!!! …。 グゥエシ! …。 キョンの放った大技により古泉君は完全に沈黙した。 …。 「許せ古泉、こうするしか……こうするしかなかったんだ……しかしまさかロリコンからホモになるとは……」 「ええ、超サイヤ人3もビックリな変身ね……目が覚めた時元の古泉君に戻っていたら良いけど」 「ああ、心から……心からそう願うよ」 …。 …。 …。 それからのアタシ達、店長らしき人が現れて。 「お願いですから出ていって下さい。お代?ええ、結構ですから二度と来ないでください」 …。 と言われ追い出された。 …。 「結局払わないでよかった訳だ」 「結果オーライってやつね」 …。 アタシとキョンは固く手を握りあった。 …。 「ところでコレどうしようか? 」 「そうだな……そこの茂みにでも放りこんでおこう」 「でもここら辺野犬が出るって話よ」 「それは大丈夫だ。たってコレは古泉だぞ」 「そうね、古泉君だもんね」 …。 そしてコレを茂みに放り込んだ後、キョンとアタシは肩を並べ歩いていた。 …。 「ところでキョン!当然送ってくれるんでしょうね?」 …。 アタシの言葉にキョンはハニカミながら言った。 …。 「やれやれ、お姫様がお望みならばな」 …。 …。 …。 …。 「……ってところで目が覚めたのよ」 …。 …。 なんだ……それは…。 ん?状況が分からない?OK説明しよう。 …。 いつもの放課後、いつもの部室。 突然ハルヒが昨日面白い夢を見たと俺たちに語り始めたのだ。 …。 ってかずいぶんと危険な言葉が出てこなかったか?閉鎖空間とか…。 …。 「んなら感想は?みくるちゃん!」 「ふ、ふえ?!え~とえ~と……そ、そうだ!古泉君はどうでしたか?」 「……この話で僕に振りますか……そうですか……」 「ふぇえええ…」 …。 古泉のコメカミがヒクヒクしている。 朝比奈さんこれはさすがにあなたが悪いです。 …。 「長門、お前はどうだ?」 「……パクリ」 …。 さて、何の事だかさっぱり分からないな。 … 「……でもユニーク」 …。 …。 ……おしまい。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/5004.html
「ねえあんたたちっ! みゆきちゃん見なかった!? こっちの方に飛んできたはずなんだけど……」 「いや知らんが、ハルヒよ。あんまり着物姿で走り回らないほうがいいと思うぞ。折角鶴屋さんの家の人から綺麗に着付けて貰ってるんだ。着物だって借り物なんだし、鬼ごっこが出来る程ここが広大だからといって早速始めちゃダメだろ」 「そんなのやるわけないでしょ! みゆきちゃん、着替え中に髪留めを取るのを渋って逃げちゃったのよ。どこ行ったのかしら……」 桃色の振袖を着飾るハルヒは、八重桜の下で座ってでもいればこれ以上ないほどの美麗な風貌を見せているのだが……やはりと言うべきか、こいつは裾をまくって鶴屋さん宅の廊下を跳ね回っている。 「涼宮さんらしくて良いではありませんか。ああやって快活な姿を見せていてくれるほうが、こちらとしても心が安らぎます。それに……」 古泉は俺に笑顔を向けると、 「異世界の問題も、無事に解決したことですしね」 ……現在、俺たちは鶴屋さん宅での俳句大会を終えて、どうせなら八重桜を背景にみんなで記念写真を撮っておこうというハルヒの提案と鶴屋さんの同意によって始まった女性陣の和装への着替えを、男性陣が待つという形になっている。 つまり今はゴールデンウィーク真っ最中であり、こうやって俺たちが平穏無事に今日を過ごせているのは、当たり前なことだが世界がちゃんと正気を保っているからだ それは俺たちの行動によって異世界の問題がちゃんと解消されているからに他ならないが、それについて語る前にまず、俺が今日ここに来て知った二つの驚きの事実について話しておこう。 一つ目は、鶴屋家の秘密の蔵に壊れた亀型TPDDが保管されていたことだ。 それを見せられて驚きを隠せない俺と古泉を見ながら、ニヤニヤを隠せない上級生はこう言った。 「いやーごめんねっ! あたし実は知ってたんだ、みくると有希っ子の正体っ。あたしが中一のときだったかな? これがいきなり空からうちの庭に降ってきてさ、中から、みくると大人っぽい有希っ子が出てきたんだよ? あたしは宇宙人もなんも信じてなかったんだけど、流石にあの登場で自己紹介をされちゃった日にゃあ、いくら鶴にゃんでも信じざるをえないねっ! あやや、あのときはたまげたっ」 「……じゃあ鶴屋さんは、かなり前からその事実を知ってたんですね?」 「ま、そういうことになるかなっ。まこと申しわけないっ。んで、そこで二人から事情を聞いてさ、正体どころか今日までの話をあらかた聞かされてたんだっ。いやあ、無事に世界が続いてくれて良かったにょろ! こうなったってことは、キョンくんはあたしの質問に答えを出したってことだよね。宇宙人と未来人、どっちを選ぶかって話っ」 「ええ。そうなるんでしょうね」 あとで気付いたのだが、恐らくこの人は、その問題を俺に投げかけることによって自分にとって大事な人は誰かということを考えさせたかったのだ。素直じゃない俺を上手く手玉にとった、なんともひねくれた問題である。流石は鶴屋さんだと言わざるを得ない。 「にゃはは。結局キョンくんが選んだのはハルにゃんだったってことだよねっ。ラブレター見たよ、あっついあつい! 触ったらこっちまで火傷しそうさ!」 何故あの手紙の存在を知っているのかについては後回しにしておく。 「それにさ、驚いたって言えばまだまだあるんだ。二人が墜落して出てきたときなんだけど、どうやらみくるが操縦ミスしちゃったっぽくって、大人の有希っ子はそれはもう鬼のようにみくるを叱ってたにょろ! もうみくるは半泣きで、しかも大切な部品が別の時代に落ちちゃってさあ大変! そして、それを見ちゃったあたしに二人が協力を求めてきたってわけさ。ほんと、高校に入ってから二人に再会して、みくるはドジッ娘のまんまだったけど、有希っ子のあまりの大人しさには我が目を疑っちゃったよ! まるで別人さっ」 ああ、通りで最近長門と仲良くなってきた朝比奈さんが、大人になるとまた長門を恐れてしまっていたわけだ。それに、未来の長門はそんなに饒舌なのだろうか? 俺のイマジネーション能力では皆目見当もつかないので、是非一度見てみたい気がする。そして、そのときに紛失した部品があの金属棒だったってわけだな。 続く二つ目の事実なのだが、それは谷口と周防九曜が知り合いであり、しかもクリスマス前に谷口が付き合ったと言っていた相手が、なんとこの周防九曜だったという話だ。 また、谷口は人違いだったというおマヌケな理由で振られちまったんだそうな。 まさか周防九曜は俺と谷口を間違えたなんて言うんじゃなかろうなと思いきや残念ながらそうだったため、谷口のどこが俺に似ているんだと当然の抗議を申し立てたとき、古泉は「いえ、お二人には実に良く似た部分がおありですよ。だから中学生の涼宮さんも………と、これは秘密です」などと、どうやら谷口もハルヒに告白をしていたということを匂わせるような発言をした。ま、別に聞かなくてもいいことさ。 と、ここでも一つ疑問が生じたと思うので説明しておく。 今回の鶴屋家主催花見俳句大会、実は参加者がSOS団以外にも佐々木たちや俺の妹、そしてミヨキチやハカセ君に至るまでSOS団関係者のほぼ全員が集合してしまっているという様相を呈しているのだ。 谷口と周防九曜が運悪く鉢合わせたことやこのイベントの参加者がこれだけの数に肥大化したことにも驚きを隠せないが、それを容易に許容できる鶴屋家の敷地面積と二つの意味での懐の深さにもあらためて一驚を禁じ得ない。 まあ、ここにやってくる繋がりとして他のメンバーはなんとなく分かるとして、佐々木たちがここに参加しているのは、会誌を仕上げた土曜日の次の日、世界の運命を分ける日であった日曜日にSOS団と鉢合わせたからだ。異世界の問題については、ここから説明を始めよう。 異世界ではそこでハルヒが俺たちの正体に気付いたことによって、みんなの記憶が失われてしまった。 しかしそれは今回の詩集、SOS団の面々が自分自身を題材にしたポエムを朝比奈みゆきが異世界にもたらしたことがキッカケとなって異世界は正気を取り戻した。 そうやって全てを知った異世界の俺たちは、こちらの世界に同期する道を選んだと聞いている。 その選択はSOS団団員のみんなが全てを団長に一任して導き出されたものらしい。 つまり異世界の俺たちはハルヒに全てを打ち明け、その上で、分裂した世界のこれからをどうするのかハルヒ自身の意思に委ねたというわけだ。 そしてあいつはこちらの世界を選び、分かたれた世界を一つにした。 俺には、どうしてハルヒがその選択をしたのかわかる。 非日常が日常になり、その身に過ぎた力があるのを知ってしまったとき……ハルヒはなんと答えるのか。 ――SOS団。涼宮ハルヒと俺たちの冒険は、本当が嘘になる世界で不思議を見つけることが目的じゃない。普通でも普通じゃない日々の中で、気の向くままに遊んでいるのがSOS団であり、ハルヒの……俺たちの望みなんだ。 そう思ったとき。 鏡の世界から投げられたハルヒの願いを、俺は確かに受け取った気がした。 ……とまあ、今回ハルヒが書いたポエムにも、それを感じさせるような言葉があったんだがな。 俺のポエムを見た後にハルヒが書いた、答えはいつもあたしの胸に、から始まる詩の中に。 そしてこちらの世界の日曜日では、俺たちは土曜日に中止となった不思議探索を通常営業で行った。 そこでばったり出会った佐々木たちをハルヒが俳句大会に誘ったのを発端に、続々と参加者が増えていったという次第なのである。 うん。今日までの流れの説明としてはこんなものだろう。 しかしまあ、佐々木と橘と周防九曜は分かるとして、藤原がやってきたのは正直意外だったな。こいつはてっきりこっちの誘いを断ってくるものだと思ってたよ。 「ふん。この国の文化に触れておくのも、僕のこれからの任務において有意義だと思ったんでね。たまには予定表にない行動をしてみるのも悪くはないよ」 「未来人の任務……これは僕の予想にしか過ぎませんが、もしかして貴方は、日本書紀を作成して聖徳太子という虚構の人物を作り出すのではないですか?」 女性陣の着替えを待機している男共が軒を連ねているあまり面白くない風景で、古泉が藤原に言う。こいつらの隣に並ぶというのもなんて居心地が悪いことなんだと思いながら、 「なんだそりゃ。つまり、聖徳太子はいなかったとでも言うのか?」 こくりと古泉。そして人差し指を立てながら、 「ええ。日本書紀でその存在が語られている聖徳太子が実は存在しなかったというのは、最近世間にも周知されてきている事実です。僕はね、このように往々にして歴史書が実際の事実と違っているのは、実はそれが未来人によって作成されていたものだったからなのではないかと想像してしまうんです。こういった方法であれば直接的にその時代を変えることなく、それからの未来を導いていけますからね。実際に聖徳太子という人物の存在は、現代の僕たちを形作る上で重要な影響をあたえていますから」 古泉の台詞に、ぷいと顔を背ける藤原。古泉は、藤原不比等がどうたらと話を続けていたかと思いきや「それよりも」と藤原の視線を自分に向けさせると、「あなたには、色々と伺いたいことがあるのですが」 藤原は溜息をつくように、 「彼女から聞いているよ。というより、全てを知らされたと言うべきか。……まさか朝比奈みくるの組織も長門と繋がっていたとはね」 「どういうことだ?」と俺が聞くと、 「長門は、僕の組織と彼女の組織を統制することによって世界を両側面から回していたのさ。僕の組織の方がどちらかといえば表で、彼女の方が裏になる。だから、こちらの方が朝比奈みくるたちよりも知らされている情報が少なかったんだ。……だが、その真実を知ったからといって、僕たちはこれまでの行動意義を疑ったりはしないよ。全ての行動が自らの意思によってなされたことに変わりはないんだ」 「その思想は《機関》の理念にも通ずるところがありますね」 そりゃ何なんだ、と聞くと古泉は遠い目をして、 「……目の前に続くこの道を、我々は自らの意思で歩いていくのだろうか、はたまた見知らぬ者の意思によって歩かされるだけに過ぎないのか――。人はその疑念を抱いた瞬間に、自身の立っている場所すら見失ってしまうことがある。しかしそれは、過去を振り返ってその道に不安を抱いた者が陥る自縄自縛の考えでしかないのです。他人の駒になってしまうことは忌避したいものですが、それを気にしてばかりいて、己が立ち止まっていることに気付かないというのは輪をかけて愚かしい行為だ。だから、僕たちはいつだって自分の意思をもって前に進むことを忘れてはならないのですよ。他の者の意思など、実は何の関係もないのです。自分の足を進めることが出来るのは、自身の意思の力以外には存在しないのですからね」 「つまり、いつだってやれることをやるだけってことか?」 「その通りです。それこそが真実に至る唯一の方法であり、また、あなたの生き様でもありますね」 これは素晴しいことです、と古泉。俺は別にそんな高尚な考えで動いているわけじゃないんだがな。出来ることしかしないだけなんだ。 「それは簡単なようでいて相当難しいことなのですよ。己に出来得ることを見極め、それを実行に移す。これは見極めるというだけでも至難の技だというのに、あなたの場合はほぼ直感的にそれを理解、行動し、その姿勢をいついかなるときも崩さない。良くも悪くも理詰めの考え方しか出来ない僕からすれば、あなたの真実を見る能力は天才的で驚嘆に値します。だから僕は、あなたには敵わないなと思うのですよ」 あんまり褒められても気味が悪いだけでしかないぜ。それにおだてられたからといって、俺がお前に敵うなんて勘違いはしない程には客観的に自分を判断する力は持ってるつもりだ。 俺たちの会話を黙したまま聞いていた藤原はチラリと古泉を見やると、 「……そこまで考えが及ぶなら、僕がキミに話すことはないんじゃないのか?」 「そうですね、あなたがもたらしてくれた理論のおかげであらかたの予想は立っています。涼宮さんの情報創造能力の正体、そして未来組織の正体についてもね。こちらから話をして様子を伺ったほうがいいのならそうさせて頂きますが」 「どの道僕が言えないこともある。キミの推論を聞いているほうが良さそうだな」 「ではまず、僕の考える情報創造能力の正体についてお話しましょう」 すると古泉は俺に、今度は四本の指を立てて見せ、 「この物質世界の物理法則は、複数の『力』によって支配されてます。それらの力は宇宙開闢の際一つの力だったものが分化して形成されたものだと推察され、これらの力が元々一つであったなら、その全てを統合し、宇宙の仕組みを統一的な原理から考えられるのではないかといった試みがなされているのですが……現在はその全ての力を統一しようとする理論の《超大統一理論》は実証されていません。が、そこで涼宮さんの時空改変能力の登場です。彼女が世界を『箱』から『紙』に変えたことによって次元の性質、つまり世界に内包されていた『力』が統合され、あの情報創造能力が発生しています。このように、世界の入れ物を変えることによって中身を統一させるという理論が涼宮さんによる《超大統一理論》であり、それは能力の発現により実証も得ている。つまり彼女に備えられた神の力の正体は、宇宙の始まりに存在し、僕たちの世界の全てを創造した『大いなる力』だったというわけですね」 まさか、あの唐変木な力にそんな正体があったなんて想像もしなかったよ。単に無茶苦茶なだけだと思ってたからな。 「なんだ。じゃあハルヒは、その力を発生させるために時空を改……」 と言いかけたところで俺は理解した。 そうか。ここでもやっぱりハルヒは力が欲しかったんじゃない。 あいつが時空を改変した理由は、小説誌に書いたハルヒの時間平面理論に関する論文が全てを語っている。 SOS団を恒久的に存続させるための方程式。 つまり俺たちと出会うことを望んだあの小さいハルヒが、SOS団でいつまでも過ごしていけるような世界を夢見て、それが時空の改変に繋がったのだろう。《あの日》に出会った俺が『鍵』となって、ハルヒは次元の箱を開いてしまったんだな。 すると古泉は遠い目をして、 「……実を言うと僕は、機関に限らず、SOS団にもいつか終わりの日はやってくると思っていたんですよ。本音を言うと今回の事件でそうなるのではないかと。……でも、そうではなかった。物語を構成する起承転結において『結』とも言えるあの出来事を通して、逆に僕たちは一つになることが出来たんです。――ここで僕は考えてしまうんですよ。ひょっとしてSOS団には、終わりなどないのではないかとね」 「……それはそれで怖い感じもするが、その理由はなんなんだ?」 古泉は微笑み、 「――SOS団が『結』を迎えたとき、そこには『団結』という言葉が形作られるからです。現に《機関》は、これから長門さんを始めとして情報統合思念体と共に歩むことに決めました。個人ではなく組織としてであれば、悠久の時を生きる長門さんをずっとサポートしていくことが可能ですからね。そして未来の《機関》こそ、朝比奈みくるさんや藤原さんの所属する組織、時間の流れの外側に身を置く時空管理局となるのでしょう。これから《機関》はそのように形態を変えていくからこそ、未来の理論も伝えられたのではないかと」 ……今まで散々話を聞かされてきたが、『団結』ね。まさか最後をそんな適当な話で締めてくるとはな。脱力せざるをえないぜ。 「そうですか? 終わりの話としては相応しいかと。それに僕は、この理論が一番好きですよ」 ふん、と俺が鼻を鳴らすと、藤原は話が終わったのを見計らったように、 「ところで古泉一樹。あんたは長門をどう思ってるんだ? 彼女といつまでも一緒にいたいだとか、そういうことは思っていないのか?」 いきなり藤原は何を言い出すんだろうか。たまらず俺は古泉に目を配る。 「流石に僕には、ずっと長門さんの傍にいるなんてことは出来ませんよ」 その言葉の意味はなんだと問いただしてやろうかと思ったが、古泉は間髪入れずに、 「ですが、そうですね……せめてこの命が続く限りは、彼女と共に過ごして行きたいものです」 そんなことを屈託のない笑み混じりに話していたとき、 「おわっ!? な、長門?」 「…………」 長門がいつの間にか俺たちの隣にちょこんと正座していた。 青紫色の着物に身を包んだ長門は、虚を突かれた古泉に視線を向けて首をこてんと傾けると、 「……古泉一樹」 そして言った。 「それは、プロポーズ?」 こいつはお前と一生添い遂げる覚悟みたいだしな。プロポーズなんじゃないか? 俺がそんなことを言うと古泉はやや困りながらもまんざらでもない反応を見せ、その姿を見ていた藤原は小憎らしい笑みを作り、 「ふん。せいぜい尻に敷かれないようにするんだな。僕が存在するためにも、頑張って欲しいと思っているよ」 「それは……」 古泉は微量の驚きを顔ににじませている。それは俺も右に同じだ。 まさか藤原は、長門と古泉の……? 「理論的には可能」 長門が淡々と口を開いた。 「ヒューマノイドインターフェースが行使する情報操作能力は、あくまでハードではなくソフトの問題。有機生命体としてのわたしの構成情報は人類のそれと同等であり、あなたたちとのあいだに生物学的な意味での差異はない。つまり、もしわたしと古泉一樹がセッ………………」 はい。テイクツー。 「わたしが普遍的な女性として生きることには、どんな弊害や支障も発生しない。唯一問題があるとすれば、相互間の精神的な問題だけ」 「じゃあ長門、お前は古泉のことをどう思ってるんだ?」 「…………」 じっと古泉の顔を見つめる長門。 「わからない。……でも、彼がわたしを守ってくれようとしてくれたことは知っている」 そして確かに、長門はにっこりと微笑んで言った。 「ありがとう」 もうおめでとうとしか言いようがないぜ古泉。これから頑張っていけば、なんとかなりそうな予感がするじゃないか。長門の笑顔を独り占めするなんて、うらやましいやつめ。 「あまりいじめないで欲しいな」 古泉は苦笑し、 「それになじり合いの勝負ならば、こちらには必勝のカードがあることをお忘れなく。組織の人間ではなく対等な友人関係としてであれば、追い詰められた僕がそのカードを切らないとは限りません」 なに言ってんだ。それはお前たちが血みどろの抗争をやってるってのが嘘だったことで相殺だ。言われなきゃわからんとはいえ、えらく無意味な嘘をついたもんだな。 「それ相応の苦労はしているつもりですよ。それに、組織には裏の顔があるほうが面白くはありませんか? 《機関》はそれこそ独占企業のようなもので、いわば敵なしの平穏そのものでしたからね。あなたの好みに合わせて、軽く色をつけてみただけです」 「そりゃお前の趣味だろうが。それに考えてみれば、一番の対抗組織だったであろう橘京子の組織とですら流血沙汰を起こしていた様子はなかったんだから、俺も気付くべきだったよ」 古泉は小さく笑い、 「それはうかつでしたね。ですが、そんな嘘を通すために当時敵対していた彼女たちと口裏あわせをするわけにもいきませんし、流石にそこまで安穏としていたわけではありませんから」 話を戻しましょう、と古泉は、 「長門さんとのことは正直戸惑っています。ですが……」 無表情を貼り付けている長門を見て、 「カマドウマ事件のとき、彼女に読書以外の趣味を教えるという件を後回しにしていたことを思い出しましたよ。そろそろ、それを考えるべき時期のようですね」 そう言いながら、古泉は流麗な笑みを長門に向ける。 俺が長門の表情に変化がないか凝視していると、 「もちろんそれはあなたもです。なんせ、あなたの方は既にラブレターまで渡しているのですから」 ここでネタ晴らしといこう。鶴屋さんやこいつがあの手紙の存在を知っている理由は、ある意味で俺の自業自得であり、ひとえにハルヒの暴挙のせいでもある。 思い出して欲しい。俺の書いたポエムは、本来機関紙に掲載されるためのものであったということを。ちなみに俺がそれを思い出したときは戦慄したね。 そう。ハルヒはあれをなんのてらいもなく無編集のまま機関紙に載せたのだ。 これはまさに俺の自業自得なのだが、ハルヒがあの内容をまんま載せた行為は暴挙だとも言えるんじゃなかろうか。 そうして俺のポエムは、機関紙の配布完了とともに全校生徒はおろか異世界にまで知れ渡ってしまったのである。 「……やれやれ」 俺はすべての憂鬱な事柄をこの一言で済ますことにした。人間諦めが肝心なのであり、ここで俺がまともに神経回路を繋いでしおうものなら、ひょっとして俺は空を飛べるんじゃないかと考え始めて暴走を開始するのは必死だからである。 「あ、キョン先輩。近くに涼宮先輩はいないですよね? フフ。この格好どうですか? 着物なんて初めて着ちゃいました」 物陰からぴょんと跳ねて朝比奈みゆきが姿を現した。エメラルドグリーンの着物姿をくるりと見せて微笑んでいるのは実に愛らしいのだが、いかんせんスマイルマークの髪留めが格好に似合っていない。 「むう。これはしょうがないんです。あたしすごいくせっ毛で、他の人にいじられるよりはこのまま留めておきたいんです」 そういうものなのかね、と思っていると、 「あなたに渡したいものがある。こっちに来て」 「ほえ?」 長門が朝比奈みゆきを呼びつけて渡したものは、髪飾りだった。 「それ、もしかしてあの金属棒のか?」 聞きながら品物を見てみると、それは透明なガラスで作られたような綺麗な雪の結晶だった。 「って、花じゃないじゃないか。雪には六花って呼び方もあるらしいが、花言葉なんてあるのか?」 すると藤原が、 「アイリス? ちょっと貸してくれ」 と長門から髪飾りを受け取り、それを陽にかざすと、 「アイリスの花言葉は『架け橋』だよ。それはアイリスという名前が、虹を意味しているからなんだ」 雪の結晶が光を受けて、藤原の顔にスペクトルが映し出される。長門はこくりと頷き、朝比奈みゆきを見つめて、 「あなたが平和な日常を送れるようになるためのお守り。出来るだけ身につけておいて欲しい」 そういうことかと思ったね。 朝比奈みゆきは、朝比奈さんが北校を卒業した後で北校に入学し、朝比奈さんの後釜としてSOS団に入ってくる予定らしい。学校でむやみに能力を使ってしまわないようにと考えた長門の配慮なのだろう。 そしてこの花言葉を選んだ理由は、朝比奈みゆきが思念体と人の仲を取り持つような生い立ちをしてきたからなのかもな。それに確かアイリスには、他の花言葉もあったような気がする。 「うわあ、とっても綺麗……。長門おねえちゃんありがとう! じゃあこれは代わりにあげちゃいます。あ、お揃いがいいな」 と言って、自分の髪留めを長門のと同じ形の雪の結晶に成形した。おいおい、誰か他のやつに見られやしなかっただろうな。 「僕も満足した。なぜか長門はこれを僕に触らせようとしなくてね。ほら、返すよ」 藤原が朝比奈みゆきに髪飾りを渡し、そしてみゆきの髪飾りを受け取った瞬間、パキン。という不穏な音が周囲に響く。 「あ」 藤原が髪飾りを掴み割ってしまったのを見て、全員が思わず声を出した。 長門は無駄のない動きでみゆき製髪飾りを藤原から掠め取ると、 「……あなたにはもう触らせてあげない」 「な……」 藤原は怪訝な顔をして、そういうことか、と呟く。 藤原と長門がそんなコントをしているとき、朝比奈さんがぱたぱたと近づいてきて、 「待たせちゃってごめんなさい。あ、長門さんとみゆきちゃんも一緒みたいで良かった。みんなの着替えが終わったからそろそろ写真を撮るみたいです。あそこの木の下に集合って言ってました」 朝比奈さんは、オレンジというよりは山吹色と表したほうが相応しい着物に身を包み、素人目からでも分かるその良質な作りの服は、それだけでいずれかの童話にナントカ姫として出てきそうな程彼女を引き立てていた。 と、この和服姿とは別に、俺は朝比奈さんの姿を見ていて一つ思うところがある。 今回の異世界騒動なのだが、タイミングが良いのか悪いのか、この朝比奈さんは《あの日》の裏で起きていたこの事件を知らないのだ。大人の朝比奈さんが知らなかったので当然なのだが、これはもしかして、小さい朝比奈さんの負担を減らそうという未来の長門の配慮だったのではないだろうか。朝比奈みゆきに髪飾りを譲ったり、あいつは自分のことよりも周りを優先させてしまう節がある。それを考えても、やはり俺たちが一緒に過ごせる時間のなかで、長門のために俺たちが伝えられることはすべて伝えて行きたいと切に思う。 それに未来では朝比奈さんも待っているし、みゆきだって藤原だっている。考えてみれば、俺の子孫とハルヒの子孫がそろえばSOS団が結成出来そうだよな。 出来れば、俺はそうなって欲しいと願いつつ。 「みんな集まったみたいね! じゃあ早速この色紙に未来へのメッセージを書いて頂戴。未来って言っても大人の自分にじゃなくて、遠未来の未来人に向けたものよっ」 「なんだ、タイムカプセルの準備はしてないみたいだが、しないのか?」 「気付いたんだけどね、タイムカプセルは自分たちで掘り起こすべきであるイベントなのよ。それにあたしたちの行動は未来にとって常識レベルの歴史になってるはずだし、あたしたちの生み出したものは石油並みに生活に必須なものとして使われているんじゃないかって思うわけ」 あながち間違いでもないことを揚々と言い切るハルヒは、 「だからタイムカプセルを残したところで、未来人にとってはあたしたちが石炭をお宝として見つけるようなもんでしょ? それより、SOS団からのありがたいメッセージがあったほうが喜ぶはずよ。ってことで、みんなで寄せ書きをしてそれを埋めようってことにしたの」 ふふんと誇らしげに胸を張る。なにが誇らしいのか俺には分からないが、良案なんじゃないか? なんてったって紙は安全だからな。奇怪なメカや珍妙な物体が長い間箱の中に入ってるよりましだ。 俺が将来このメッセージを掘り起こすであろう朝比奈さんたちの身を案じていると、くっくっと特徴的な笑い声が聞こえ、 「涼宮さんは面白いことを考えるね。この場に来てしまうのは正直気が引けたんだが、理由もなく断るような真似をしなくて正解だった。ほんとに楽しいね、ここは」 ハルヒも長門も朝比奈さんも相当に男の目を引っかけるのだが、俺の目はそれに少々慣れていたのかも知れない。 普段と変わらぬ口調と服装のアンバランスさが何らかの効果をもたらしているのか、緋色の着物姿の佐々木は文句なしに美人だった。 「ほら、佐々木さんに見とれてないで、あんたからまず書いちゃって。もし面白くないことを書いたりしようものなら、なにが面白かったのかをみんなの前で説明させるからね」 ぐっとくる台詞を言うじゃないか。なんせ、これが冗談じゃないっていうんだからな。 ここでの面白いとは何のことを言うのだろうと思いつつ、俺はハルヒから渡されたサインペンと色紙を構える。何を書こうか。 「そうだな……」 ここは一つ、未来のSOS団結成に足りない俺とハルヒの枠を埋めてもらって、あっちのほうでSOS団を結成してもらうように頼んでおくか。 俺はスラスラとペンを走らせて、その辺でアホな面を下げていた谷口へと色紙を手渡す。 すると谷口は「ぎょっ」というありえない悲鳴を出し、 「おいおい。ポエムの件に関しちゃあ俺も書くように言ってたからよ、たとえラブレターを読まされても文句は言わん。まさか本当に書いちまうとは思ってなかったが……。しかしだなキョンよ。こんなところでまでノロけられちゃあ流石に滅入るぜ?」 何を言ってるんだなんて言葉はお前には飽きるほど言ってきたと思うんだが。いい加減俺にも分かりやすく物事を話してくれると助かる。 「貸しなさい」とハルヒは色紙をひったくると、俺が書いたメッセージを見るやいなや顔を朱に染めて、 「……ばっ! あんた、なんてこと書いてんのよ!? バカじゃないの、このエロキョン!」 いやあ罵られている理由がまったくの不明であるがゆえに、こちらとしてはなんともリアクションがとれないぜ。 一体いま何が起きているのかを確認しようと、俺も再度自分の言葉を確認してみると、 「げ」 どうやらとんでもない齟齬が発生しているらしいということに気がついた。 「ち、違う! これはそういう意味じゃないんだって!」 「おや、ではどのような意味なのです? そのままの意味ではないのですか?」 小憎らしいスマイルを浮かべて俺をなじる古泉。さっきの仕返しをしてきやがるとは、お前も中々やるようになってきたじゃねえか。いいだろう、覚悟しろよ古泉? 今からお前が未だかつて見たことのないほど頭を下げて降参する男の姿を見せてやる。 そんなこんなを言いながら、全員が集合していることもあって、場内ははやしたてるように一気に騒がしくなった。が……。 俺は、自分の書いた言葉に対するみんなの誤認を強くは否定出来なかった。 一人の少女の憂鬱から始まった物語。 それはいつの間にか俺たちの物語となって、これから先の未来へと続いていく。 しかしまあ、俺はここらで、未来に向けた俺とハルヒのメッセージをもって長く続いたこの物語に一応の節目をつけておこうと思う。 まず、我らが誇るべきSOS団創設者であり絶対不可侵なる団長、涼宮ハルヒの言葉はこれだ。 『未来永劫、SOS団に栄光あれ!』 みんなで撮った集合写真を見せられないのが悔やまれる。みんなこの言葉を胸に、相当良い笑顔をうかべていたんだぜ? そして最後を締めくくるのは、僭越ながら俺の言葉である。 先に言っておくが、俺はSOS団と、みんなと、そして何よりハルヒに出会えて最高に良かった。 そんな俺が書いた言葉は……、 『俺とハルヒの子供をよろしく』 さて。 この言葉が将来どんな意味を持つことになったのかは――禁則事項だ。 涼宮ハルヒの団結 完
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip2/pages/3817.html
今更ながら気付いたが、まだ日中にも関わらず森の中は非常に気味が悪い。いやはや、よくぞハルヒは一人で追いかけてきたもんだ。 と、そんなことを思慮深く考えていたせいかは知らんが、俺は繋いでいた手に一層の力を込めた。 瞬間、白いシーツに赤ワインを垂らしたように、ハルヒの耳が朱の色に染まっていく。 そして彼女は、そんな乙女じみた反応に比例するように、とてもとても力強く俺の手を握り返してきた。 こんな初々しい様子を見せられて、愛しく思わないやつがいるだろうか? いるなら出てこい、俺が骨の髄まで叩き込んでやる。 ……なんてな。困ったもんだ、どうやら俺は本気でこいつに――。 俺がむやみやたらと感慨にふけっている間に、眼前にそこはかとない光が射し込んできた。 あまりの眩しさに目を瞑る。久しぶりに本物の光を見たような気分であるのは何故だろうかね。 いや、理由は分かってるか。俺の目の前にいる彼女。こいつが希望の光を与えてくれた。 森を抜け出た直後、完全に置き去りにされていた他の連中が、俺たちの姿を見つけるやいなや揃って駆け寄ってきた。 「キョンくん、あの、その、佐々木さんのことなんですけど……」 「もう大丈夫です、朝比奈さん。ご迷惑お掛けしました。早く佐々木を助けてやりましょう」 俺がなるだけ明るく、そう発すると、朝比奈さんはアスファルトに咲いたタンポポを見つけたように顔を明るくして、 「そうです、頑張りましょう。あたしも、あたしに出来ることなら何でもやりますから」 爽やかな風が通り抜けた。 美術館にも飾れるであろう容姿の女神様は、天候を操る能力まで兼ね備えているようだ。 ハルヒとは別種の救いを俺に与えてくれる。心の補完のためには確実に必要な存在だね。 「僕も尽力します。姫様たっての希望でもありますから」 「あ、あたしだって、佐々木さんのために頑張るのです!」 と、古泉と橘も続いた。 この二人にも感謝しなきゃな、とは思いつつも「ああ」と投げやりに返してしまう俺。本能のままに生きているということを証明した瞬間でもあった。 「じゃあみんな、張り切っていくわよ! 出発進行!!」 そのまま俺の腕をつかんで、再びハルヒは歩き出した。一国のお姫様とは思えぬ行動力。 しかし、ここは全力で抵抗をさせてもらう。 「待て、ハルヒ」 現在持ち得る力を全て足に集約させ、懸命にフルブレーキングを試みる。それでも引きずられるのはどういう了見であろうか。 そんな俺に対して、ハルヒは眉間にしわを寄せながら、 「あによ」 あによ、じゃない。無鉄砲に進みやがって。 そんなことやってたら佐々木を助けるのがいつになるかなんて検討もつかんぞ。ましてや、また犠牲者が増えるかも……。 「じゃあどうすんのよ! あたしに意見したんだから、何か考えの一つくらいあるんでしょうね!」 沈黙。 そこまでは全く考えていませんでした。 「いや、あの……えっと、じゃあ、朝比奈さん」 俺が苦し紛れに名を呼ぶと、朝比奈さんが肩をビクッと震わせた。 何にもしてないはずなのに、犯罪でも犯したような気分に苛まれる今日この頃。 「あー……うん、そうだ。一度アジトに戻って、喜緑さんのところを訪ねてもらえませんか。何とか協力をお願いしたいんですが」 たまには考えずに話し始めてみるもんである。俺の口から零れ出たその言葉は、今の状況に対して真に適切な案であったと我ながら思うね。 さて、当の朝比奈さんは、瞼で大きな目をパチクリと往復させて、 「ええっと……それ、あ、あたし一人でですかぁ?」 「いえ、もちろんもう一人付けますよ」 冗談じゃない、一人だなんて危険すぎる。 これ以上誰かを傷つけたくはないんです。朝比奈さんほどの可憐なお方は特に。 「僕がご同行いたしましょうか?」 「却下」 「冗談です」 冗談だかマイケルだかは知らんが、こいつにだけは任せられん。それこそ朝比奈さんが傷物になる可能性がある。 そんなことになったら、こいつを殴り倒すどころじゃすまんね。 「それに僕は姫様のお供をすることが至上命題でもありますから」 知るか、そんなもん。 「橘、頼めるか」 消去法っていったら橘に失礼だが、実質余るのはこいつしかいない。 女二人だけだが、橘だったらそこらへんの雑魚くらいは倒せるから大丈夫だろう。 「任せてください。あたしがついているからには、朝比奈さんに指一本触れさせません!」 頼もしい言葉だね。若干信用はしかねるが。 しかし、おい、あからさまに古泉を睨むのはやめなさい。 「大丈夫よ、橘さん。古泉くんには好きな人がいるから。みくるちゃんに手を出すようなマネはしないわ」 と、ハルヒ。 ちっとばかり肝を抜かれたが、まあ確かに、こいつなら普通の付き合いをしていても何ら不思議はないな。 しかし古泉は、何やら分かっていないといった表情で、 「僕に、想い人ですか? そんな方はお見受けしないように存じますが……」 「あれ、古泉くんって森さんのこと好きじゃないの?」 終始ニヤケ面だった顔が固まった。心なしか青白くなっている気もする。大丈夫かよ、こいつ。 数秒の後、古泉はやっとのことで有機活動を再開し、 「有り得ません、絶対!」 明確な拒絶を感じるね。 森さん、という俺にとって未知のワードは、そんなに古泉の琴線に触れるものがあるのか。 「ふーん、そうなんだ。あたしは結構お似合いだと思うけどなあ」 と、ハルヒが含みのある笑いをしながらのたまった。 古泉は未だにしどろもどろ。主従関係の常を見た。 うむ、しかしこれはいい弱みを握れた。さすがハルヒと言うべきか。 「ま、それでも健全な男女が二人きりだったら何が起きても不思議じゃないわね」 というわけで、なんだかんだで結局、喜緑さんのところには朝比奈さんと橘の二人で行ってもらうこととなった。 「ところでみくるちゃん!」 「は、はい」 「アジトって何、どこにあんのそれ?」 「えっとぉ、城下町の」「城下町! ああもう、それじゃあそんな格好してちゃダメじゃない。あたしが見繕ってあげるから、こっちに来なさい!」 朝比奈さんが全て話し終わる前に一気にまくし立てたハルヒは、その勢いを持続したまま、年下と間違えてしまいそうな彼女をテントへと引きずっていった。そんな彼女の手には巻き込まれた橘の姿が。 「ひょえええ」 荒野に虚しく響く二重の叫び声。 それをバックグラウンドとし、俺は近くの岩に腰掛けた。 「ふう」 今更になって体に痛みを感じる。それこそこれまで経験したことがない、焼けるような痛みだ。 アメージング。少しだけだが、みんなと触れ合えたことで安心したから再発したんだろうな。 などと、俺に似合わなずセンチメンタルな気分を味わっていると、 「お隣、失礼します」 失礼させません。 「冷たいですね。お姫様にはあんなに優しいあなたが」 俺は女には誰にでも優しいんだよ。紳士として当然のたしなみだ。 「いえいえ、しかしあれには驚かされましたよ。あなたの口からハルヒ、とはね」 お前は一度その減らず口を釘で打ち付けた方が良さそうだ。今なら俺が自ら承ってやる。 「ご遠慮願います。ところで、朝比奈さんたちはあなたのアジトとやらに行くとして、僕たちはどうするんですか?」 沈黙、再び。 「まさかとは思いますが、何も考えていないなんてことは……」 「悪いか?」 開き直るほかなかった。 「まあ悪い悪くないで言ったら、10 0の割合で悪いかと」 100%じゃねえか。だいたいさ、お前も何か考えろよ。 誰か知り合いに石になった人間を元に戻してくれるやつとかいないのか? 「残念ながら」 「……そうかい」 俺は少し残念そうに言った。端からこいつに期待なんてしてなかったがな。 その言葉を境に、それ以上古泉が話しかけてくることはなかった。俺は延々と続く荒野を見ながら思う。 今日はやけに沈黙が続く日だ。 「おっまったせー!」 一キロ先にも聞き取れるような声が沈黙を一突き。それは近くの山々にぶつかって、若干のエコーがかかっている。 俺は遠くからも聞こえてくる反響音にも耳を傾けつつも、目の前に降臨した三人の天使を眺める作業に躍起となった。 ……はずだったのだが、俺はハルヒ一人から目を離すことができなかった。そりゃ朝比奈さんも素晴らしいんだが……むう、こりゃどうしたもんかね。 それにしても人間塞翁が馬。辛いことがあったと思えばこれだ。これだから人生というやつは面白いのだろうけどな。 なんて俗物的な考えをしていると、ハルヒが多少訝しげにこちらを一瞥し、 「どしたの?」 分からないことは訊く、当然のこと。5歳児にだって簡単に行うリアクション。 しかし、それを答える側となると話は別だ。訊ねる側に比べ、飛躍的に上昇した言語レベルが必要とされる。ある所説によると、返答は限界への挑戦とも称されるそうだ。 まともに返す場合は少しでも相手に伝わりやすくするため、ごまかす場合は少しでも質問の主から遠ざけようとするために尽力する。 そして、今回の俺のケースは後者にカテゴライズされ、上手くそれを実行しようとした結果、もれなく辞書にも載ってしまいそうな悪い例を披露してしまった。 「えっと、だな……そう、空は青いな、と思って」 ポカーンとした表情のハルヒ。朝比奈さんと橘はその隙にとハルヒの腕から脱出し、おしゃべりモードに突入した。 二人の「綺麗ですねー」というレスポンスを耳の端で捉えながら言葉を反芻し、よくよく考える。 前述すら弾いてしまう、悪い例にすら分類されない超絶タームを自らが発したということに気付くのに、それからそう長くはかからなかった。 「……あんた、何言ってんの? バカじゃない」 ぐぅの音も出ないほどの的確さ。反論の弁も無いとはこのことを指すのだろう。 俺が言葉に詰まったところを見ると、ハルヒは古泉に森さんのこと言及したときと同種の顔をして、 「はっはーん、もしかしてあたしに見とれてたってわけね。ほら、素直に言っちゃいなさい、今なら許してあげないこともないから」 「ああ、めちゃくちゃ綺麗だ。三人の中で誰よりも」 恐ろしいほど滑らかに口から言葉が出た。これが若気の至りであろうか。いやはや、怖いもんだね。 虚を突かれ、呆気にとられていたハルヒは徐々に頬を赤く染め上げた。お話中だったはずのお二人も顔を真っ赤にしている。 ん、ああ、古泉は説明する気にもなれん。強いて言えば、殴りたくなるような顔をしていたよ。 「ふ、ふんっ! よく分かってんじゃないの! アホのあんたにしてはマシな答えね!」 「そりゃどうも」 褒められているのか貶されているのかイマイチよく分からん。 しかしまあ、ハルヒの照れた顔が見れたからよしとするか。 「照れてなんかなーい!!」 ……そんな軽口を挟んだ三時間後―― 「――おい古泉、てめえやっぱり道間違えたんじゃねえのか」 「そんな筈はないと思うのですが……」 またその返事か。だとしたら、どうしてこんな状況なのか説明してもらおうかね。認めたくないが、認めざるを得ない。 現在、俺たちは遭難している。 話は三時間前に遡る。つまりは、俺とハルヒのたわいもないやり取りが終わった辺りだ。 「そろそろわたしたちは行きますね」という朝比奈さんにしては珍しい、モデラートのリズムのお言葉が契機だった。 俺は「一段落したらこっちから連絡します」と残し、名残惜しくも二人と別れた。 ある程度の距離まで二人を見届けると、ハルヒはくるりと俺に向き直り、 「で、あたしたちはどうすんの? もちろん決めてあるんでしょうねえ?」 と、そのときの俺が最も追求されたくないゾーンに土足でずんずん踏み込んできた。 ハルヒの顔に浮かぶ悪の笑み。それによると、どうもこちらの様子が分かって訊いているらしい。ここはスキップを使ってもらいたかった。 それに俺は特にボロを出すようなマネはしなかったはず……ああ、あれか。シックスセンス恐るべし。 さて、悪魔の笑みの効能なのか、俺の手乗り文鳥並みメンタルに与えられたダメージは、存外大きいものとなっていた。 そして、そのように精神を病んでいたためであろう。古泉に助けを求め目配せなどしでかす始末。 しかし、そんな俺の大英断をダンゴムシのごとく丸め込み、あいつは我関せずとばかりに朝比奈さんたちが旅立った方角を細い目で眺めている。 ……後で覚えてやがれよ、くそっ。 わずかの時間、古泉をシバくという別ベクトルの感情に想いを馳せていると、いつのまにやら、ハルヒは笑顔を極悪から得意満面に変化させ、胸を張りながら物申す。 「あたしの知り合いに王女様がいてね、その人なら何でも協力してくれると思うの」 この言葉に反応したのは他ならぬ古泉。 「なるほど、鶴屋さんですか」 「そ、古泉くんも分かってるじゃない」 「確かに彼女なら快く協力してくれるでしょうからね」 完全に蚊帳の外にいる俺。 「そういうわけよ! あたしたちの目的地は鶴屋さんとこで決定ね!」 ふむ、別に反対する理由もない。よし、じゃあ俺たちも行くとするか。 佐々木、待ってろよ。 ――と意気込んどいてこの様だ。 情けない、ああ情けない、情けない。 一句読んでみたが気休めになるわけでもなく、余計にブルーになった。心の中も猛吹雪である。 「だいたい、この山は絶対通らなきゃならんのか? もっと安全なルートはねえのかよ」 「ごちゃごちゃうるさいわよ! これが一番近い道なの! ちょっとでも早く佐々木さんを助けたいんでしょ!」 「そりゃそうだが……」 「じゃあ文句は言わない! いいわね?」 「……了解しましたよ、お姫様」 だが、本格的にマズいんではなかろうか。先程から延々と同じ場所を歩いている気がする。あ、だから遭難か…………へっくしょん…………にしても、寒いな……。 「大丈夫?」 「ああ、大丈夫だよ」 「あんた、首寒そうね」 ん、そういやマフラーとかしてなかったな。 「しょうがないわね、はい、これ」 自分が巻いていたマフラーを外して、ずいっと突き出す。 「いいよ、お前が巻いてろ」 いくら寒いからと言って、女の子から防寒具を奪い取るほど落ちぶれちゃいないさ。 「うるさい! 大人しく言うこと聞きなさい」 ハルヒが「とりゃー」と嬌声を流しながら俺の首目掛けて飛びついてきた。 同時に、腕に柔らかいものを感じ、理性がフライングしかける。……生きててよかったなあ……。 「あなた方がいれば凍死する心配はなさそうですね」 遠い目で戯れ言を抜かすな、バカやろう。 「いや、しかしですね……あれ…………」 「おい、どうした?」 「……急に、眠気が……」 「あたしも……何だか……眠い……」 おいおい、冗談じゃねえぞ。 「お前ら、絶対寝るんじゃねえ! 本気で死んじまうぞ…………いっ!?」 二人の体がフェードアウトしていく。雪が溶けていくように。 「……んだよっ、これ……くそっ、ハルヒ! 古泉!」 俺の叫びも虚しく、やがて、二人の体は完全に消失した。 「…………嘘、だろ……」 情けなくも、泣きそうになったとき、ふと、そう、何の前触れもなく突然に、背中を冷たい汗が流れた。 二人が消えたからか……いや、違う。 「……お前、誰だ……?」 あまりの威圧感に意識を失いそうになったが、何とか紡ぐように言葉を吐き出す。 吹き荒れる吹雪の奥で、そこだけがぼやけている。夏の日の、蜻蛉みたいに。 「――涼宮……ハルヒ――」 対峙するだけで気絶しそうなほどのプレッシャーを受ける。 佐々木と共に戦った怪物より、遥かに強い。 ハルヒに借りたマフラーが顔にぶつかり、俺を現実に返した。 冷静になった俺は、そいつの言葉を省みる。確かに言った、涼宮ハルヒと。 「――――連れ戻す――――」 結論。 こいつは俺が倒さなければならない。あいつらが消えたのはこいつの仕業だ。 「……ハルヒは渡さねえ」 「――無謀――」 無謀、か。 確かにお前の言うとおりかもしれん。だがな、それでも……やるしかないんだよ。 「俺がみんなを守るんだ」
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/617.html
3年前の7月7日、わたしは彼と出会った。 それから、今年の7月7日まで彼をあずかっている。 それまで、2ヶ月と少し・・・ ページをめくる 無音なこの文芸部室。 彼が来るまで、後2週間。 たった2週間。けれども、2週間も後。 廊下から足音が聞こえる。 徐々にこちらに近づいてくる。 きっと、この文芸部室を通り過ぎる。 そう思う。 ページをめくる 足音が止まった。 ドアが開く。 わたしは、その方向にゆっくりと首を向けた。 そこにいたのは、進化の可能性、 涼宮ハルヒ おかしい。涼宮ハルヒが来るのは2週間後なはず。 わたしは涼宮ハルヒを見た。 涼宮ハルヒも、わたしを見ている。 「仮入部したいんだけど」 涼宮ハルヒは言った。 仮入部?・・・検索開始。 該当項目を発見。 「そう」 わたしは答えた。その言葉だけで充分だと判断した。 顔を本に戻す。 ページをめくる 「あんた確か6組の子よね?体育の授業一緒だから」 「そう」 「あんた名前なんていうの?」 「長門有希」 「他の部員は?」 「部員はわたしだけ」 「へー、じゃああんたが入部しなかったらこの部活、廃部だったんだ」 「そう」 そして、涼宮ハルヒは本棚から本をとりだし、パイプ椅子に座って読み出した。 わたしも読書をつづける。 ページをめくる 「アメンボ アカイナ アイウエオ ウキモニ コエビモ オヨイデル」 隣の部室から声が聞こえる。 必要な情報ではない。削除。 やがて、涼宮ハルヒは落ち着きをなくしだした。 足を揺らす、椅子を揺らす。あくびをする。 なぜそのようなことをするのかは、わたしには分からない。 「あんたよくこんなのずっとしてられるわね。しんどくならない?」 どう答えるべきだろうか? 「大丈夫」 そう答えておく。 「ねえ、あんたのクラスに宇宙人とか未来人とかいたりしない?」 「いない」 ここは、嘘をついておくべき。 そう判断した。 「やっぱり、あたしやめるわ」 「そう」 涼宮ハルヒは鞄を持って、部室を出て行った。 ドアが開きっぱなし。 わたしは、念動力を使い、ドアを閉めようとする。 やめた。 わたしは歩き、ドアを手で閉めた。 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 涼宮ハルヒが文芸部に仮入部してから、2週間がすぎた。 現在、昼休み。 足音が聞こえる。文芸部室のドアの前で止まる。ドアが勢いよく開く。 「あっ!いたいた!ねえ、この部室貸して!新しい部活作るから!」 「かまわない」 「そう、ありがとう!」 そう言って、涼宮ハルヒは急いぐように部室を出て行った。 ページをめくる 今日、涼宮ハルヒはSOS団を設立する。 けれども、わたしの待機モードはまだつづいている。 彼が来るまで。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/4740.html
第一話 「おはよう、涼宮さん。最近嫌な事件が続いてるのね」 あたしが朝教室に着くなり阪中さんが話しかけてきた。 「おはよ。なにそれ?どんな事件?」 そう返事すると少し驚いたような顔をして教えてくれた。 「知らないの?最近この辺りで女子高生が誘拐される事件が続いてるのね。犯人はまだ捕まってないし…怖いのね…」 えっ?そんな事件があったなんて全然知らなかったわ…これは気になるわね… 「涼宮さんも気をつけた方がいいのね。それじゃあまたなのね」 そう言い残し自分の席へと戻って行った。 それと入れ替わるようにキョンが教室に入ってきた。 「おう、ハルヒ。おはよう。…どうした?」 ボーッと考え事してたからだろうか、あたしの顔を覗きこむようにたずねてきた。 …って顔近いわよっ! 「キョン!大事件よ!」 さっき聞いたばかりの事件をキョンに話した。 「ああ、その事件なら俺も知ってる。昨日のニュースでもやってたしな。 嫌な話しだぜ…」 なんだ、知ってたんだ…それなら話は早い! 「いい?これは放っておけない大事件だわ!早速今日の放課後からSOS団で調査開始よ!」 あたしは椅子の上に立ち上がり、しかめっ面をしたキョンへと高らかに宣言した。 「おい、ハルヒ!バカな事言うな。警察でも探偵でもない俺達に何ができる?」 むっ…なに呆れた顔してんのよっ! 「もし事件に巻き込まれたらどうするんだ…危険な目にあうかもしれないし…俺は…嫌だぞ、ハルヒがいなくなったりするのは…」 とつぶやくのが聞こえた。 「え…それってどういう―」 「と、とにかく事件のことは警察にまかせておけよ。わかったな?」 「わ、わかったわよ…」 急に話を終わらせたキョンにしぶしぶと答えるとちょうど岡部が入ってきた。 「みんな、おはよう。ホームルーム始めるぞ。それとハンドボールはいいぞ!」 岡部の戯言が耳に入らないくらいあたしはドキドキしていた。 さっきの言葉、どういう意味だったのかな…もしかしたらキョンもあたしのこと…好き、なのかな? いつか…この大好きって気持ちをキョンに伝えたい。今週の不思議探索の時に…頑張ってみようかな… その日あたしは授業中もずっと一人でにやけていた。かなり危ない人みたいね…今日はすごくいい日だわ!記念日にしてもいいくらいに。 そんなことを考えているとあっという間に放課後になった。 「キョン!掃除なんてさっさと終わらせて部室に来なさいよ!遅れたら死刑なんだから!」 「はいはい、わかってますよ。団長様」 いつもみたいな会話をして、一人で部室に向かった。 そして勢いよく部室のドアを開いた。 ----------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「あ、涼宮さん。こんにちわー」 あたしが部室に入るとメイド服姿のみくるちゃんがお茶の準備をしようと立ち上がる。 「ヤッホー、みくるちゃん。あれ、有希と古泉くんは?」 「えっと、二人ともクラスの用事で遅れるそうです。さっき部室に来て涼宮さんに伝えておいてくださいって言ってましたよ」 温度計とにらめっこしながらみくるちゃんが答えてくれる。 「そうなの。…ん?」 机の上に置いてあるものに気づく。編みかけの…マフラーかしら。 「みくるちゃん、マフラー編んでるの?あっ、もしかして好きな男の子に?」 冗談めかして言ってみる。 「え?あぁっー、そ、それは…その…」 んー、顔を真っ赤にしたみくるちゃんも可愛いわね! 「実はキョンくんにプレゼントしようと思って…この前新しいお茶の葉をくれたからそのお礼に。このお茶がそうなんですよ」 瞬間的に思考が凍りついた。 嬉しそうな顔したみくるちゃんがあたしの机にお茶を置く。 ちょっと待って…キョンが?みくるちゃんに?いつのまに…? 自分の中で黒い嫉妬が生まれるのがわかる。 「えへへ、マフラー渡す時にキョンくんにわたしの気持ちを伝えようかなって、ふふ、そう思ってるんです」 その言葉を聞いて、さらに黒い嫉妬は叫びをあげる。 「そん……対……許……わよ」 「はい?どうしたんですか?涼宮さん?」 聞き取れなかったのだろう、みくるちゃんが側に来る。 「そんなの絶対に許さないわよっ!なによ!こんなお茶いらないわ!」 机の上に置かれたお茶を思いっきり床へ叩きつけた。 ガシャーーンと陶器が割れる音が狭い部室に響きわたる。 「な、なにするんですか!せっかくいれたお茶なのに…」 泣きそうな顔でみくるちゃんが睨んでくる。 「SOS団は団内恋愛禁止なのよ?それを…あんたは!」 自分の感情を抑えきれなくなりみくるちゃんに掴みかかる。 「しかも…キョンだなんて…絶対に認めないわ!キョンはあたしのものよ?あんたなんかよりあたしの方がずっとキョンにぴったりだわ!諦めなさい!これは団長命令よ!?」 「わ、わたしだってキョンくんのこと大好きなんです!諦めたくありません!それに…わたしの気持ちなんだから涼宮さんには関係ないじゃないですか!」 思ったより強い力で突き飛ばされあたしは尻餅をついた。 なによ…みくるちゃんのくせに! 目の前が怒りで真っ赤にそまる。 そして気がつくとあたしはみくるちゃんを思いっきり突き飛ばしていた。 「あっ…」 みくるちゃんが後ろに倒れると椅子に強く頭をぶつけ、ガンッと鈍い音がした。 しばらく苦しそうにうめいていたがやがて動かなくなる。 ハッと一気に現実に戻った私は目の前の光景を見つめた… 「み、みくるちゃん?…嘘でしょ…?目を…開けてよ…」 震える手でみくるちゃんをゆさぶる… でも…ぴくりとも動かない。 「そ…そんな…い、嫌…嫌あああああああああああああああああああああああ!」 叫び声が響き渡る。 どうして…どうしてこんな事に…どうすればいいの… その時、ノックの音がして、部室のドアが開いた。 -------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「うー、寒い寒い。っ!おい!ハルヒ…なにやって…」 部室に入ってきたキョンが目を見開いてあたしをみつめる。 最悪…よりによってキョンが入ってくるなんて… 「なんで朝比奈さんが倒れてるんだ?なにがあったんだよ!なあ!ハルヒィ!」 大声で問い詰められて身体の震えがいっそう激しくなった。 どうしよう…このままじゃキョンに嫌われちゃう。嫌だ、嫌だ!そんなの嫌だ! 「脈がない…死んでる、のか…」 キョンがみくるちゃんの脈を確かめながらつぶやく。 「あ、あたしは悪くない…みくるちゃんがキョンの事好きだって言うから…つい…カッとなって…」 「…お前がやったのか?どんな理由があるにしろお前が朝比奈さんを殺したことには変わりないんだぞ!」 すごい顔をしながら睨んできた。 「だってだって…嫌だったもん!キョンがとられちゃうの嫌だったもん!」 必死になって言い訳を並べる…きっとあたしは泣きそうな顔してるんだろうな… もうおしまいね…二度と今までの日常には戻れないだろう。 しばらく沈黙の時間が続く。やがて、 「…ハルヒ、聞いてくれ。俺がにいい考えがある…だから安心しろ」 さっきとはうってかわって ものすごく優しい声でキョンが言った。 最初キョンの言っている事がよく理解できなかった。てっきり怒鳴られてすぐ警察につきだされると思ってたのに… 「それって…あたしを助けてくれるって、意味…?」 「そうだ…こんな時だけど…俺はハルヒが好きなんだ!だから…離れたくない!」 「あたしも…嫌。大好きなキョンと離れたくない…ずっと、ずっと一緒にいたい!」 我慢しきれず涙がこぼれる。 「絶対俺がなんとかするから。頑張って二人で乗り越えよう。な?」 そう言って優しく抱きしめてくれた。 「うん…うん。二人で…頑張る!」 あたたかいキョンの腕の中で、あたしは泣いた。 こんな状況だけどすごく幸せで嬉しかった。 だってそうでしょう?ずっと好きだった人と両想いだったことがわかったんだから。 でも、この時あたしは気付いていなかった。自分の犯した罪の重さを、そして、どんな結末が待っているのかを… --------------------------------------------------------------------------------------------------------------- 「とりあえず…もうすぐ長門と古泉が来るから急いで死体を隠さないとな」 キョンは辺りをみまわしながらいろんな所を探ってる。 「よし、掃除道具入に隠しておこう。後でもっとわかりにくい場所に移動させれば大丈夫だ」 キョンがみくるちゃんの死体、かばん、制服などを掃除道具入につめこみ、床にちらばった茶碗の破片を片付けた。 「これでよし…っと。ハルヒ、二人が来てもいつも通りふるまうんだぞ?」 「うん…わかった。」 私は団長机へ、キョンはいつもの場所へと座る。すると、 「いやあ、遅れてすみません。」 「……………」 相変わらず笑顔の古泉君と無言の有希が部室に入ってきた。 「おう。遅かったな。今日はどのゲームにする?」 「おや、あなたから誘ってくるなんて珍しい。そうですね、今日は―」 キョンの向かい側の椅子に座る古泉君。有希は窓辺に座って読書を始める。 私はネットサーフィンでもしようとパソコンの画面に集中する。けど、どうしても視線は掃除道具入へといってしまう。 「涼宮さん?さきほどから落ち着かない様子ですが、どうかされました?」 キョンとチェスを始めた古泉くんが聞いてくる。 「ああ、こいつ朝から体調が悪いみたいなんだ」 「そう、そうなのよ!でも平気だから気にしないで」 キョンのフォローで助かった。 「そうでしたか。ところで朝比奈さんの姿が見当たらないようですが、どこへ行かれたのでしょう。先程部室に顔を出した時にはいらっしゃったのですが」 いきなりみくるちゃんの話題が出て思わず息をのむ… 「あ…えっと…」 「朝比奈さんならお前らが来る前に用事を思い出したとかで先に帰っていったぞ」 またもキョンがフォローしてくれる。 でも、少しずつ身体が震えてきた… 「なるほど。…涼宮さん?本当に大丈夫なんですか?震えていますが…風邪ですか?無理なさらないほうが…」 心配そうな顔をした古泉くんが話しかけてくる。 「うん。そうね…今日はもう帰るわ。このまま解散にしましょ」 「おう。わかった」 「かしこまりました」 「……………了解」 それぞれに答えみんなが帰り支度を始めた時、 ガタッ…! 掃除道具入から音がした。 っ…!なんで…!こんな時に! みんなの視線がいっせいに掃除道具入へとむけられる。 気になったのか有希が立ち上がり掃除道具入の扉に手をかける。 どうしよう!まずい、まずいまずいまずい… もう、ダメだ…諦めて目をつぶった時、 「長門、中のホウキが倒れただけだろ。気にするな」 有希を止める声が聞こえた。 「………………そう」 有希はほんの少し怪訝そうな表情を浮かべたが、やがて扉から手を離した。 それを見てあたしは気づかれないように息を吐き、そのまま椅子にもたれかかった。 本当に危なかった…キョンが止めてくれなかったら今頃… 「それじゃあお先に失礼いたします」 「………お大事に」 二人が先に出て行くと部室には私とキョンだけが残った。 「ふー、なんとか誤魔化せたな。大丈夫か?ハルヒ」 「う、うん…大丈夫…ありがと」 キョンは掃除道具入を開けて中を覗きこんだ。 「死体を運べるくらい大きなバッグを探してこなきゃな。ちょっと待っててくれるか?」 そう言うとキョンは部室を出ていこうとした。 「キョン!なるべく…早く戻ってきてね」 「ああ。わかってるよ。すぐ戻るからおとなしく待ってろよ」 キョンを見送って一人になると今さらながら自分のしでかした事に頭を抱える。 これから一体どうなるんだろう… 誰にも見つからないでうまく隠せるのだろうか… 私は椅子に座ったまま目を閉じた。
https://w.atwiki.jp/haruhi_vip/pages/2163.html
付き合って3ヶ月目の俺とハルヒ。今日は日曜日。 昨日は探索をこなし、今日はデートの予定だ。天気は快晴、気候もよし。 「なのに、なんでお前の部屋で二人で寝てんだろうな」 「知らないわよ、そんなの。あ~、良い天気ね」 「ハルハル~、外にデートに行こうぜ~」 「行かない、疲れてるもん。それとキョン、その呼び方やめなさいって何度言ったかしら?」 自分だって、俺を名前で呼ばないじゃないか。とは言えない。 だから、俺は何度でもそう呼ぶことで反抗するのさ。 「ハルハル~。昼飯も食べないといけないだろ~?」 やはり、ポカポカ陽気のせいか話し方までダラダラしてしまう。 「後であたしが作ってあげるわよ。……今度『ハルハル』って言ったら別れるわよ」 「そんなこと言うなよ、ハルハル~」 「あ、もう怒った。二度と口きかないんだから」 ハルヒは俺に背を向けるように寝返りをうった。……本気で怒ったか? しかし、この呼び方は意外に気に入ってたりする。 「ハルハル? 怒ったのか?」 「……………………」 返事はない。ただの屍のようだ。とか言ってみる……無理。本気で殺される。 「ハルハル、こっち向かないと……キスするぞ?」 「……………………」 返事はない。OKの証だ。俺はハルヒの首を捩じり、優しく口づけた。 「ちょっと! 勝手に何してんのよ!」 「いや、こっち向かないとキスするって言っただろ?」 「言ったけどさ……もっとほら、雰囲気とか……」 ハルヒは拗ねたように唇を尖らせた。その唇にもう一回キスしてみる。 「だーかーら!」 「今、キスして欲しかったから唇を尖らせたんだろ?」 大きな溜息の後、ハルヒは無言でまた背中を向けた。そろそろマジギレか? 「……………………」 ……遊ぶのは終わりだな。背中から『あんたなんか嫌いオーラ』が出てる。真面目に謝ろう。 「ハルヒ、俺が悪かった。俺はただ、お前とデートがしたかったんだよ」 「……あたしはただあんたと一緒に居たいだけなのに」 背中を向けたまま放たれたその言葉は、どこか『いじけた感』を感じさせる発音だった。 あぁ、やっぱり怒ってるな。しかしその理由がまたかわいい。 「俺が悪かった。だから機嫌直せよ、な?」 ここで後ろから抱きついてみる。これで機嫌直してくれるか? 「……離してよ、別れるって言ったじゃない」 まだ機嫌は直らない。しかし、伊達に3ヶ月も付き合ってるわけじゃないぜ。 こんな時の対処法もバッチリだ。ハルヒが頑なな態度を崩さない、そんな時は……突き放す。 「あぁ、そうか。勝手に抱きついたりしてわるかったな、『涼宮』」 「……え?」 「じゃあ、俺帰るから。また明日学校でな、『涼宮』」 ここで足早に立ち去る。……フリだけどな。 「え、ちょ……ま……待ちなさい!」 ほら来た。 「う~……ごめん。あたしが調子に乗りすぎた」 付き合って初めて見たハルヒの謝る姿。これがまた、意外にかわいいんだ。やみつきになるね。 それに考えてみろ。あの、何者にも屈しないハルヒが自分に謝ってくるんだぞ? ある一種の征服感を感じないわけにはいかないだろ? 「だから……もっかい」 仲直りのキスを求めてくるんだ、こいつは。まぁ、キスとか抱き締める以上のことはしないんだけどな。 ハルヒが求めてくるまで、俺はそれ以上をしようとは思わん。それに今のままで充分満足だ。 俺は一言、「しょうがないな」と言ってベッドに戻り、ハルヒに口づけた。 まったく、可愛らしい奴だ。ハルヒに気に入られた俺は幸せ者だな。 「あたし、ご飯作ってくるわ!」 そして、仲直りの後はいつものことだが、照れ隠しのために理由をつけて目の前を去るんだ。 ここら辺、ハルヒらしいなと俺は思う。 ハルヒの作ってきたかなり美味い昼飯を食べ、再びゴロゴロダラダラの時間へ。 いい加減どっか行かないか? と言おうと思ったが、やめた。 これはこれで幸せだからな。特に買い物がしたいわけでもないし、どこかでイベントがあるわけでもない。 ハルヒにうで枕をして、たまに言葉を交わす。そして、たまに抱き合ったり、唇を重ねたりする。 これが幸せだと思えない奴がいたら俺に教えろ。俺の幸せそうな表情を見せてやるから。 「ねぇ、キョン。どっか行きたいなら行ってあげてもいいわよ?」 おっと、これは予想外だ。いつもはこんなことは言ってこないんだけどな。 あらたなパターンを知るイベント発生か? ……まぁ、俺の選択肢は決まってるがな。 「いーや、遠慮しとく。お前は行きたいのか?」 するとハルヒは、こんなことを言いだした。 「違うけど……あんたがしたいことがしたいからさ」 ……フラグ成立か? 俺がここで一言、「ちょっとエッチなことがしたい」とか言うとどうなる? さすがに断るよな。「あんたキモすぎるわ」とか言われて。 しかし、初めての展開ならやってみる価値はある。もちろん、最後までやる気は毛頭無いが。 「俺がしたいこと? ん~……お前とちょっとやらしいことがしたい」 さぁ、どう出る? 困るだろ、顔真っ赤にして……かわいいんだよ、バカ! 「……い、いいわよ」 ハルヒは小声で言った後、強く目を瞑った。ヤバい、このまま突入だけはヤバい。 「や、優しくしなさいよ……」 なんでこいつは予想外のことをするんだよ……。しかも「優しくしなさいよ」ってなんだよ。 ……我慢できなくなるだろ、バカ。 とりあえず、ハルヒを跨いで座り、上からキスしようと顔を近付ける。 「……っ」 あ~、やっぱダメだ。こんな顔をしてる奴とやるのは無理。あたし我慢してます、みたいな顔するなよ。 俺はハルヒの額に頭突きをかまして、再び横に寝転んだ。 「あたっ! ……キョン、なんでやめるのよ! あ、あたしは全然怖くなんてないんだから!」 「冗談だよ、冗談。無理しなくても、ずっと俺は好きでいてやるよ」 ハルヒに対して優位に立っているとこんなセリフが出るもんさ。 今の俺はなかなかカッコいい部類なんじゃないか? あ、勘違いか、すまん。 「キョン、ありがと……」 ケンカ(もどき)の後のハルヒは完全に言いなりだな。ま、他の奴等といる時は完全に俺が下だが。 それくらいのサービスをもらってもいいよな? 普段は俺がこき使われ、二人なら俺が優位。これが俺達のバランスの取りかたらしい。 つーか、幸せなら何でもいい。バランスもいらん。ただ二人だけの時間が増えさえすればな。 「すー……すー……」 おっと、うで枕が気持ちよかったのか、眠りはじめやがった。これでまた、俺の腕は痺れることになるな……やれやれ。 しょうがないから俺も寝るか。それじゃ、おやすみ……。 おわり